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2日目#11 ユーナも握手できるもん

「どうやって握るんだ?」

 予想外の展開に自分の声が震えている。

 ユーナが何をやらかすつもりなのか、期待半分と不安半分だ。


「ユーナ右手止めてるから、ゆっくり右手を近づけて。……急はだめ。あと、手は半開きね。約束だよ」

「わかった」


 俺は右手を慎重に動かす。

 ユーナの右手と重なり合う手前まで、そろそろと近づかせた。

 二人の右手は1センチほど空間を開けて、握手の直前の態勢を保っている。


「これで握るの?」

 我ながら馬鹿げた問いが出る。

「いいよ。でもそっと。やさしくね」

 ユーナが返す。


 実体のないファミル相手に、妙な会話をしているのは自分でもよく分かる。

 だがそれに突っ込む余裕はない。意識が右腕だけに集中していた。

 宇宙船がドッキングするときのような、繊細な緊張感が右手を覆う。


「ゆっくり右手同士をくっつけて。その後握り合うよ」

 ユーナは「画像に手を合わせて」という言い方ではなく、実体がそこにあるかのように誘導する。

 じわじわと二人の手が近づき、掌が重なる直前となった。

 

「指先に力入れて。ちょっとだけ握って」

 少しだけ力を入れて、指先を曲げる。

 ユーナの手の甲、俺の右親指が触れている部分が凹んだ。


「今、ユーナたち握手してるよ」

「あ、ああ」

 そこで初めて、俺は右手からユーナへ視線を移した。

「へへ……緊張するね」

 恥ずかし気に、頬を赤らめて微笑んでいた。


「ごしごし振るのはダメだけど、握手だよね、これ」


 そうかもしれない。

 視線を右手に戻す。


 俺が触れているモノは何なのか?

 空間に右手を出しただけの感覚ではなかった。

 もちろん実体を握っている感覚でもない。

 ファミルに触れている、としか言いようのない不思議な感触を、俺の右手は捉えていた。


「じゃあそろそろ放すよ?」

 ユーナが右手を開く。


 俺も、それに合わせて右手を開いた。

 続けて二つの手が1センチほど離れる。


「終わりっ!」

 ユーナが右手を引っ込めた。


 自分の脈拍が早くなっていることに俺は気付いた。

 女の子と手を触れあって興奮する、という感覚ではないと思う。思いたい。

 ファミルに触れる。

 そんな特異な体験に、頭が追い付かないのかもしれない。


「あのう、すみません……」

 ふいに女性の声がした。

 慌てて振り返る。


「あ、くららさん、何ですか?」

 何事もなかったかのように、平然とユーナが尋ねる。


 いつの間にか、会議室にくららが入っていた。

 何時からいたのか?

 猛烈な不安が襲ってくるのを、俺は振り払った。


「神田部長が佐田山さんとお話したいそうです」

 その言葉に現実に引き戻された気がした。

 俺は準備が整っている旨を返答する。


「第七会議室へお越しください。ファミル抜きで話をしたいと申しております」

 俺とユーナは目を合わせた。

「いってらっしゃい」

 ユーナが小首を傾け微笑んだ。



 第七会議室は第六よりさらに狭く、窓もなかった。納戸を無理やり会議室にしたような狭さだ。

 真ん中の四角いテーブルは4人で囲めば満席という風情で、椅子も四脚しかない。ホワイトボードは無いが、壁には磁石付きのマーカーが貼りついていた。壁自体がボード代わりになるのだろう。


 神田部長は入り口を見据える格好で、俺を待っていた。

 小柄な印象だが、顔には締まりがあった。目と口と鼻が中央に集まり、眉がつりあがっているように見える。怒っているのか普段からこうなのか、よくわからない表情だ。例えるならプチ仁王様、という表現がしっくりくる。


 椅子に掛け、軽く自己紹介を交わす。

 さて何から言おうかと考える暇もなく、先に質問を投げられた。


「今の時点で、何か手掛かりは掴めそうか?」

 唐突な、しかも核心を突かれて、俺は言葉に詰まる。


「まるでダメならそう言ってくれ。()退()()()()()()()()()()からな。」

 ずいぶんな言い草に、俺は少しカチンと来た。

 こうなったら現状で想定できる、最悪のストーリーを話してみるか。

 俺は軽く息を吸った。



「3月8日の役員会議事録など、さまざまな資料を拝見した上で申し上げます。……源田の発案ではファミルIDを非常権限IDに転化するとありますが、これはクーデターの伏線と思われます」

 勿体つけて、一旦ここで区切って神田部長を見た。


「ほう、それで?」

 何も突っ込まないか。

 仕方ない。

 俺は話を進める。


「源田のバックには黒幕となる役員がいたんです。非常権限IDが可決されれば、黒幕のファミルに仕込むつもりだった。その後、頃合いを見計らってシステム上にトラブルをわざと起こし、何かの会議の場で、黒幕が御堂社長を責めて解任するクーデターを起こす。同時にファミルを非常権限IDへ転化させて、システムを守った功績を得る。結果、システム全体と、この会社を掌握する事に成功する」


「おもしろいな」

 あ、余裕ぶっこいてる。だけど話はこれから!


「その計画をぶっ壊したのは、他でもない()()()です、神田部長。……あなたが源田案に反対したため、計画が腰折れになった。だから赤石は源田を売って足を洗おうとし、源田は逃げた。結果的に赤石は、黒幕側に消されたとも思える死に方をしました。そう考えれば、あなたも危うい立場にいます」


 神田部長は笑って手を叩いていた。

 いや、これ、笑う話じゃないんだけど。怖い話なんだけど……。

 結構考えたんだけど!


「なかなか面白い。ファミルの反乱を真に受けただけある……」


「この話は冗談ではなく、想定される最悪の……」

「わかったよ」

 神田部長が片手で俺を制した。


「あんたの話には、論理の飛躍と誤解がある。……まずな、非常権限IDって何だ? 転化するってことは、すでにシステム上の概念として存在してないとダメなんだが、管理IDの上位IDって、ファミルのシステムにおいて、存在してるのか? その確証はあるか?」

 ぐ! 痛い所を突かれた。


「確証はありません。……転化の件がそのまま役員会審議されてましたので、存在する前提で考えています」

「わかった。上位ID、源田の言う非常権限IDは存在するんだ。まあこれは後で話そう」

 俺の素直な返答が満足だったらしい。非常権限IDの存在があっさりと明言された。

 

「それと誤解してる部分だが、ファミルIDを非常権限IDに転化させるなら、既存のファミルじゃダメなんだ。それ用のファミルIDを用意する必要がある」

「それ用?」


「ああ。源田が転化プログラムとやらを完成させているなら、転化可能なファミルIDを固定化、つまり決め打ちしているはずだ。任意のIDでなく、固定IDを非常権限IDに転化する形式だとプログラム的に簡素化できるからな。ヤツは時間に余裕がなかった。この手法で作ったに違いない」

 話を完全に理解できないまま、俺は頷く。


「で、なんで既存ファミルがダメかというと、すべてのファミルに非公開IDが存在するからだ」

「非公開ID?」


 神田部長がニヤリとした。

雪蘭(シュエラン)のIDだよ。ファミルは()()()()()()()()()だ。すべてのマスターの裏ファミルが雪蘭。あんただと、表がユーナ、裏が雪蘭って訳だ。ユーナのIDは知ってても、雪蘭は知らないだろ?」

「知るも何も、雪蘭にIDがあったこと自体、今知りました」


「だよな?」

 さらに目が細くなる。

「で、雪蘭のIDを知ろうと思ったら、それこそ管理IDでシステムにアクセスしなければならない。つまり、源田が黒幕さんのファミルを転化しようにも、その非公開IDを知ることはできない。となると、あらかじめ非公開IDも含んでファミルIDを作っておく必要がある」


「では、結論として神田部長はどうお考えですか? 非常権限IDへの転化プログラムも、『それ用』のファミルIDも、源田には作成できなかったと?」


 ゆっくりと首が振られる。

「いや、俺は源田が両方とも作成したと睨んでる」




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