2日目#5 ユーナ初出勤
羽賀と入れ替わりでやって来た笹尾みのりに案内され、第六会議室へ通された。
ここが当面の作業スペースらしい。昨日の第一よりも一回り狭く、オフィス用事務机が二台並んで置かれた「隔離部屋」といった面持ちだ。
机の片方にはデスクトップのPC一式とタワーが設置されていた。
みのりはタワーの電源を確認した後グラスを装着すると、俺に対しても装着を指示した。
素直に従い、カバンからグラスを出して電源を入れる。
すでにユーナは室内にいた。
「おはようございます。今日から、お仕事頑張ろうね!」
ユーナに怒っている様子はなく、すぐに声をかけてくれた。ただ、心なしか声調に抑揚が無い。
「あ、うん、よろしく……」
返事をしながらユーナをよーく見る。
セーラー服ではなかった。
襟の大きな白いシャツに濃いグレーのスカートスーツ。足元は黒のローファーに、薄いグレーのストッキング。
化粧っ気がなく「すっぴん」ではあるものの、会社にいてもまったく不自然さの無い雰囲気をまとっていた。ただし例のカチューシャは健在だ。
「おはようユーナ。私は笹尾みのり。よろしくね」
みのりが明るく話しかけた。
「おはようございます。よろしくお願いいたします」
ユーナがみのりに視線を向け、丁寧な挨拶を返す。
「こちらこそ! ところでそれ、いい感じのスーツだね。ダークグレーが渋いよ。黒のカチューシャもアクセント利いてる。ナイスコーデ! って感じ」
二人のやり取りに、俺は目を見開いていた。
挨拶速攻、5秒でカチューシャ推し?
それが普通の反応ですか?
「ありがとう、みのりちゃん。さだやまさんが買ってくれたんだ、これ」
カチューシャを指さすユーナ。
「へええ~」
みのりが俺を見てニヤける。
「仲いいんだ~」
「でもさ、カチューシャ見ても何も言ってくれないの、さだぷーの奴。……ホントひどいよ。あんまりだよ」
「そりゃひどいねえ」
一瞬だけ呆れ顔を俺に向け、すぐにユーナへ顔を戻す。
「私はいいと思うよ。職場でカワイイ系のカチューシャは目立ちすぎて不似合いだからね。ステルスお洒落って感じ、私好きだな」
ステルスオシャレ、それが模範解答ですか、みのり先生。
「さだぷーは、お葬式でしか似合わないって言った」
「うっわ最悪。さだぷー、その回答マイナス50点だな」
点つけるの、最近の流行なのか?
通算するとマイナス40になってる。
しかもさっきから、さだぷーって何だ?
「ま、気を取り直してPC立ち上げましょう。じゃあ今から、ファミルを使った社内データの取り扱い方法を説明します」
有無を言わさないみのりの一言で、そのままレクチャー開始となった。
だが朝の一件を引きずっていた俺は、笹尾みのり指導の下、ユーナを使役するのは正直なところ気が重い。
のっそりとカバンを置いて、PCが設置されたほうの机につく。
「あ、その前に佐田山さん、一旦ユーナちゃんをスリープさせて下さい」
「スリープ?」
みのりが言うには、ファミルにもスリープモードがあり、マスターが指示した場合か、またはマスターが話しかけず放置すると最短1分でスリープモードへ移行するそうだ。
彼女の要請は、レクチャー最中にユーナが余計な口を挟まないようにとの配慮からだった。でも俺にとっては渡りに船。
「ユーナ、スリープへ移行して」
「はーい。じゃあ休憩します」
素直な返事と共に、召喚時に台座となっていた雲状のふわふわ椅子がユーナの足元からむくむくと出現した。
「おやすみ」
ぴょんと飛び乗り、ユーナはそのまま召喚時の眠りの姿勢となった。
「あ、でも佐田山さん。寝た場所がちょっと邪魔なんで、佐田山さんの後ろに移動させましょう。片手を伸ばして、掌でユーナを掴むようにしてください。指先を軽く閉じると、グラス内にHoldと表示されるはずです」
みのりが俺に指示を出した。
「こう?」
俺は右手をユーナに向け、言われた通りに指を動かす。
ユーナを丸く囲むようなオレンジ色の枠が現れ、Holdの表示が現れた。
「Holdが出れば移動可能です。佐田山さんの後ろに持っていきましょう」
俺はユーナにてを向けたまま、身体を後ろに向ける。するとユーナが雲ごと移動を始めた。
「手首の微妙な変化で三次元的に動かすこともできます。離すときは、掴んだ指をパーにしてください」
席の後ろ側にユーナを移し、掌を開く。
Releaseの表示が現れ、ユーナが雲と共に床にトンと降りた。
「よくできました。今のはスリープ中でなくてもできますよ。今のはファミルの位置移動コマンドです」
礼を言うと、詳しい内容はダウンロードマニュアルに載ってます、とだけ答えてくれた。他は自分で調べなさい、という事だろう。
「じゃあ、私のファミルを出して説明しますね。……カオリ、第六へお願い。出現座標軸、マスターグラス正面を原点に、X120、Y025、正位同期、オールクリア!」




