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初日#12 FAMiR”雪蘭”

 ファミル起動にあたっての具体的な操作方法は、グラスを通じてガイドファミルが説明いたします。タワー型端末、およびグラス右側テンプルの起動スイッチをオンにした後、グラスを装着してください。


 アパートに帰った俺は、1LDKの部屋全域をひとまず掃除してからキットを開梱した。中に入っていたのはタワーやグラスやらの機材一式と説明書だ。といっても説明書は紙っぺら一枚で、初回の起動方法が図柄付きで解説されているだけだ。他はファミルIDコードとして12桁の英数字と二次元バーコードが描かれている。詳細はファミルが説明するらしく、インターネットからの取説ダウンロードも可能とあった。

 いわゆるチュートリアル方式のようだ。


 グラスは指紋認証を経ず電源オンとなった。

 装着すると、目の前が暗転ブラックアウトし、続いてゆっくり「FAMiRシステム起動」との表示が視界下方からせり出すように現れた。

 表示は数秒続いた。やがて砂粒となって流れる演出で消え去り、画面が明るくなり始める。ゆっくりと目の前に、室内風景が投影されだした。厳密にいえば投影ではなくガラス面の透過度が上がって室内が可視化されたのだが、演出効果からVR画面のような錯覚をおぼえた。

 

 室内の可視化と同時に光の粒が湧き立つようにグラス下方から現れ、視界中央部に集まっていく。

 粒は人の形を造り出し、白く光った後、チャイナドレスを着たスタイル良い女性となって俺の前に現れた。


「こんにちは。ガイドファミルのシュエランです」

 彼女が両手を合わせ、会釈気味に軽く頭を下げた。


 まるでマカオか香港辺りのセレブのパーティーに出かけるような、見事なチャイナドレス姿に、俺は見入ってしまった。

 紺色のドレスは裾を金糸で縁取りされ、胸元には鳳凰が銀糸で編み込まれている。CG画像とはいえ、かなり手の込んだ作り込みがうかがえた。

 ただ微笑む表情には媚びた雰囲気はなく、むしろ俺を値踏みするような鋭い眼光を伴っている。くららとはまた違うタイプの女性だ。

 髪をすべて結い上げて左右のお団子でまとめているが、子供っぽさは無い。

 むき出しのおでこが、シャープに尖った短めの眉と切れ長の目に程よく調和して、可愛らしさと清潔感と、一種の緊迫感を感じさせる。


 彼女の胸の前に、「雪蘭」と金色に漢字が浮かび上がった。

 雪に蘭、で、シェーラン? 中国語?

 そう思いながら発音してみる。

「シェーラン?」

 

「少し発音が違いますね。シュエ・ラン? です」

「はあ」

 復唱すると泥沼化する気がしたので、あえて黙る。てか、なぜ最初のファミルが中国風なんだろう?


「ファミルの世界へようこそ、これからあなたをご案内しますね」

 雪蘭がにっこりと笑った。

 チュートリアル設定ゆえか、雪蘭は脱線せずに話を進める。


「それでは、あなたのファミルを召喚する前に、ユーザー登録設定を行ないます」

 雪蘭の前に正方形のマスが10ほど現れた。

「あなたの名前を音声でお答えください」

佐田山(さだやま)隆司(りゅうじ)

 自分でも間抜けに感じながら答える。


「サダヤマ・リュウジ、でよろしいですか?」

 雪蘭が尋ねると同時に、マスにはカタカナがはめ込まれていた。ご丁寧に姓と名の間はアンダーバーになっている。俺はOKと返答した。

「サダヤマさんの氏名を音声にて認識しました」


 その後は生年月日に住所、電話番号やメールアドレス……といった個人情報登録となり、犯罪および反社会的行為にファミルを使用しません、などと書かれた長ったらしい約款をスクロールして読むこととなる。グラス内の映像に対して手首を動かせばスワイプする事ができるのだが、この辺のユーザーインターフェースは使い勝手よく思えた。

 もちろん流すだけで、ほとんど読まずに「同意」と告げる。


 ところが、雪蘭が意外な反応を見せた。

「ご同意ありがとうございます。以下は約款における最重要事項なので、念のため音声にて再度、通知します」

 鋭い声が響いた。

 何だろうかと俺は彼女を見つめる。


「ファミルに対する暴言および脅迫、暴力行為、性的嫌がらせは、一切行わないでください」

 え? そりゃそんなつもり無いけど……

「はい、わかりました」

 俺はたぶん、ハトが豆鉄砲を食らった、という表情になっているだろう。


「ファミルには絶対領域が存在し、接近できる限界値が設定されています。人間がこれを超えようとすると、ファミル映像は非表示化されます。ご注意ください」

 これはつまり、ファミルに襲い掛かるなという事か?

 襲うと消えるって事?


「わかりました。気をつけます」

 よくわからないまま、俺は素直に言葉を返す。

 雪蘭が満面の笑顔になった。

「ご理解とご協力に、感謝申し上げます」


「次は指紋認証によるセキュリティ設定に移ります」

 すぐに真顔に戻った雪蘭が左手を上向きに挙げて、俺のグラスを指し示した。

「右手の任意の指をグラス右側のテンプルに強く当ててください。……よろしいですか?」

「OKです」

 雪蘭が左手を下す。

 しばらく沈黙。

 右手の人差し指を読み取っているらしい。


「認証完了いたしました。……他の指を追加することもできます。どうしますか? 後でもできます」

「じゃあ後でします」

「ではファミル召喚に移行します。ファミルIDは登録済みを確認しました」


 雪蘭が目を閉じた。

 右手を宙に掲げ、その先に顔を向ける。


「被召喚ファミル、FY116278-DP49。ユーナ、この地に現れなさい」


 雪蘭の時と同様、どこからともなく光の粒が湧き立つように発生し、集まり始めた。やがてそれは、人がすっぽり入るくらいの、大きな繭のような白く細長いかたまりとなる。

 繭は斜めに傾いて宙に浮かんでいたが、角砂糖を湯にいれたようにゆっくり崩れはじめ、やがて中から少女の姿が現れ始めた。

 手を胸の上でクロスし、リクライニングした椅子に座るような仰向けの姿で両目を閉じている。崩れた砂糖粒は彼女の下に溜まり、そのまま雲のような白いクッションになった。


 この娘がユーナ?


 彼女(ユーナ)は、入院着のような作務衣のような飾り気のない白い服を身にまとい、クッションに身を預けている。深い眠りに落ちているらしく、胸の上の組まれた両手が小さく揺れていた。


「ユーナのプロフィールは、本人から聞くことができます」

 雪蘭の声に、一瞬ぴくんとユーナの顔が傾き、柔らかそうな黒髪が揺れた。


「すぐに目覚めます。それでは末永く、彼女をよろしくお願いします」

 雪蘭が深々と(こうべ)を垂れる。その姿勢のまま白く輝き始めると、スッと溶けるように消えてしまった。


 呆気にとられながらユーナに視線を移す。

 いつの間にか彼女は目覚め、上体を起こしていた。



改訂履歴

2020.7.22. 誤字修正。雪蘭コメント若干手直し。

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