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Angel fall  作者: 流水 山葵
6/43

6話 距離

「萌佳、一人だけ先に行っちゃうんだもん。ずるい!」


「ご、ごめんねー」


 裸の風羽が萌佳のシャワー室に近づく。


「煩悩よ去れ。煩悩よ去れ。煩悩よ去れ」


 必死に目を閉じて見たい欲求を消し、息を潜める十葵。


「あぁ?」


 萌佳の恐ろしい視線が突き刺さるのがわかる。


「な、何もないですよ……」


 震えながら、小声で呟く十葵。


「ん?萌佳、どうしたの?」


 風羽がひょこっと隣から顔を覗かせる。


「な、なんでもないよー」


 お湯の量を多くして音で誤魔化す萌佳。


「……なんか、色々悪いな。怒りたいはずなのに俺のこと助けてくれて」


 ポツリと十葵が言う。


「……別に。見られたのは恥ずかしかったけど、十葵が悪い人じゃないのは知ってるから」


「え?」


 萌佳の顔を見る十葵。


 少ししゃがんでいるせいでどうしても見上げる形になってしまう。


 萌佳のたわわな胸を下から見るのは絶景だったが、口にすれば首をへし折られるだろう。


「と、とにかく黙って静かにしてて」


「お、おう……」


 顔を真っ赤にさせた萌佳と十葵。


 沈黙が続く。


 そして、かなり時間が経ってから。


「萌佳ー?大丈夫?先上がるねー」


「うんー」


 自分より後に入ってきた風羽と結依を見送る萌佳。


「……行ったよ」


「わ、悪い。助かった」


「まったく……わ!」


 長い間お湯をかかっていたせいで、のぼせたのであろう。


 ふらついた萌佳を十葵が思わず支える。


「大丈夫か!?」


「ご、ごめん……」


「ホントに悪い。俺のせいで」


 落ち込む十葵の額を弾く萌佳。


「気にしないの。ほら、私向こうで着替えてくるから。さっさと浴びて出ちゃいなよ」


 ニコリと笑いかけてくる萌佳。


「……ありがとう」


「うん。それと」


 そして、


「いい加減、胸揉むのをやめろ!」


「ぐぼぁ!」


 見事な蹴りを脇腹に貰った十葵であった。



「なぁ、十葵。なんでシャワールームにおらんかったん?」


「つーか、なんで、ずっと脇腹抑えてんだ?」


「うるせぇ!」


 ガバッと布団に潜る十葵。


「萌佳。なんか顔赤いよ?」


「やっぱりシャワー浴びすぎてたんじゃない?」


「そ、そうかも。気をつけるよ」


 十葵のことを思い出し顔を赤くする萌佳。


 互いの距離が少しずつ近づいていく夜であった。

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