6話 距離
「萌佳、一人だけ先に行っちゃうんだもん。ずるい!」
「ご、ごめんねー」
裸の風羽が萌佳のシャワー室に近づく。
「煩悩よ去れ。煩悩よ去れ。煩悩よ去れ」
必死に目を閉じて見たい欲求を消し、息を潜める十葵。
「あぁ?」
萌佳の恐ろしい視線が突き刺さるのがわかる。
「な、何もないですよ……」
震えながら、小声で呟く十葵。
「ん?萌佳、どうしたの?」
風羽がひょこっと隣から顔を覗かせる。
「な、なんでもないよー」
お湯の量を多くして音で誤魔化す萌佳。
「……なんか、色々悪いな。怒りたいはずなのに俺のこと助けてくれて」
ポツリと十葵が言う。
「……別に。見られたのは恥ずかしかったけど、十葵が悪い人じゃないのは知ってるから」
「え?」
萌佳の顔を見る十葵。
少ししゃがんでいるせいでどうしても見上げる形になってしまう。
萌佳のたわわな胸を下から見るのは絶景だったが、口にすれば首をへし折られるだろう。
「と、とにかく黙って静かにしてて」
「お、おう……」
顔を真っ赤にさせた萌佳と十葵。
沈黙が続く。
そして、かなり時間が経ってから。
「萌佳ー?大丈夫?先上がるねー」
「うんー」
自分より後に入ってきた風羽と結依を見送る萌佳。
「……行ったよ」
「わ、悪い。助かった」
「まったく……わ!」
長い間お湯をかかっていたせいで、のぼせたのであろう。
ふらついた萌佳を十葵が思わず支える。
「大丈夫か!?」
「ご、ごめん……」
「ホントに悪い。俺のせいで」
落ち込む十葵の額を弾く萌佳。
「気にしないの。ほら、私向こうで着替えてくるから。さっさと浴びて出ちゃいなよ」
ニコリと笑いかけてくる萌佳。
「……ありがとう」
「うん。それと」
そして、
「いい加減、胸揉むのをやめろ!」
「ぐぼぁ!」
見事な蹴りを脇腹に貰った十葵であった。
「なぁ、十葵。なんでシャワールームにおらんかったん?」
「つーか、なんで、ずっと脇腹抑えてんだ?」
「うるせぇ!」
ガバッと布団に潜る十葵。
「萌佳。なんか顔赤いよ?」
「やっぱりシャワー浴びすぎてたんじゃない?」
「そ、そうかも。気をつけるよ」
十葵のことを思い出し顔を赤くする萌佳。
互いの距離が少しずつ近づいていく夜であった。
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