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Angel fall  作者: 流水 山葵
40/43

40話 希望

 戦闘を行う十葵達。


「おいおい、何か数が多いぞ」


 弘佑が無限とも言える数で近づいてくる天使の集団を見て呟く。


『基本型』は山ほど()くが、一体一体は強くない。


 しかし今回は『巨人型』が十体ほど見える。


「あんな数、どない対処すればええねん。十連コンボや壁ハメなんて持ってないで」


 翔太が困ったように声を出す。


「だから属性がある」


 結依が翔太を励ますように声をかける。


「……天使がやけに多い。それに楓先生のあの態度……」


 全員が戦いに集中する中、十葵は別のことに思考を巡らせていた。



 そして、再び高速を飛ばして大学に戻ってきた楓。


 インエンから聞いてはいたが、平日の大学でここまで静かなのはやはり慣れない。


 早足で大学奥のインエンの研究室へ向かう。


 扉をノックすると、相変わらずの陰鬱な声が入室を許可する。


「やあ、上手く彼らを遠くへ追い払ってくれたようだね。能力者にはこの催眠は効かないからな」


 彼らとは十葵達の事だろう。


「ええ。今、この大学で起きているのはあなたと私だけよ」


「ふふ、そうかそうか」


 満足そうに笑うインエンに楓は口を開く。


「一つ聞かせてちょうだい。貴方達天使は人間を襲って何がしたいの?」


「ずいぶん無粋な事を聞くのだね?」


「協力してあげたんだから、それくらい聞く権利はあると思うわ」


 クスッと笑う楓。


「……まあ、いいだろう。人間には強い想いがあるだろう。いわゆる『感情』と言うものが」


「ええ」


「しかし、我々天使にはそれが理解出来ん。我々も感情があるように見えてはいるだろうが、これは組み込まれたプログラムに近い。いわゆる、演技なのだよ。本来我々は、君達が『基本型』や『巨人型』と呼ぶ天使と同じ、感情らしい感情はない。だからこそ、人間を破壊しても調べても結果のわからぬ『感情』が気になるのさ。だから、人間を吸収して『感情』を知る。それが目的なのだよ」


 愉快そうに顔を歪ませて笑うインエン。


「……そう」


「そういう訳だ。さあ、私は能力者の彼らが戻ってくる前に用事を済ませなくては」


 そう言って研究室を出ていこうとするインエンの道を(ふさ)ぐ楓。


「おや、どうかしたかね?」


「貴方達に感情なんて芽生えないわ」


「……なに?」


 そして、顔を上げた楓の表情は怒りに震えていた。


「人間を傷つけて!いえ、誰かを傷つけて得るものに!価値なんてありはしない!」


 そう叫びポケットに忍ばせていたスイッチを押す楓。


 すると、研究室内に強力な磁場が発生する。


「ぐぉ!」


 咄嗟(とっさ)のことで耐えきれずに倒れ込むインエン。


「ぐっ。き、さま……!」


「いくらこの世界とは違う存在とはいえ、中身が機械なら磁力が効くんじゃないかと思ったけど……正解のようね」


 あまりの磁気のせいで楓自身も苦しそうだ。


 楓の鼻からは血が流れる。


「く、ククク。どうした!このままでは貴様も自滅するぞ!」


 苦しみながらも愉快そうに笑うインエン。


「ええ。最初から『勝つ』気なんて無いわ。私の命と引き換えに人型天使一体を倒せるなら……安いものよ!」


「なに!?」


 苦しそうに拳銃を取り出し、インエンに向ける楓。


 しかし、楓は気づいていない。


 インエンは苦しみながらも、楓の背後から浮かせた三又の槍で狙っていることを。


「……終わりよ、インエン」


「クク、終わるのは貴様だ……楓ェ!」


 お互いが発射しようとした、その時。


「人生諦めんのは早いで。楓先生!」


 どこからともなく翔太の声がする。


 さらに、次の瞬間。


「だぁらあ!」


 壁や窓ガラスをぶち破り、弘佑が飛び込んでくる。


「ぐぁ!」


 弘佑は勢いあまり、インエンを殴り飛ばして地面を転がる。


 壁が破られ、密室でなくなった事により、強力な磁場も解除される。


「あ、あなた達……どうして!」


 驚く楓。


 その体を十葵が支える。


「楓先生、助けに来たぜ!」

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