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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その13 感染研実験

作者: 天城冴

世界でパンデミックを巻き起こした新型肺炎ウィルス。各国ではあらゆる手段で検査を実施し初期感染者を発見隔離していたが、ニホン国では一向に検査数が増えない。その理由は何かという憶測が医療従事者の間でなされていたが…

20XX年 世界では新型肺炎ウィルスが大流行。ニホン国でも感染拡大が懸念されていた。しかし世界の動きに逆行してウィルス判定検査は対象が絞られ、初期感染の発見を遅らせていた。


「な、なぜ、また検査の許可がおりないの!もう5日以上38度近い熱が出ていて、しかも高齢の持病持ちの男性、死亡率が最も高い人の一人なのに」

医師は乱暴に受話器を置いた。

「先生…、また、ダメですか。やっぱり、あの噂は」

そばで聞いていた看護士がつぶやく。

「ああ、そうかもしれないわね。国立感染研究所の奴等がわざと検査対象を絞っているっていう話?」

看護士は無言でうなずく。医師は自嘲気味に

「このウィルスの特徴を見極めるために自分とこでデータを独占したい、しかもあらゆる症例をとるために、わざと検査しないで重症化させているって。それが本当なら国民全員、私たちでさえ実験体なのかもね」

「僕たち現場の医療従事者がどう感染するかも観察してるっていうんですか。だからマスクや備品の不足を積極的に解消しないって」

暗い目でいう看護士に

「そうかもね。悔しいけど」

看護士は上を向いて

「畜生!あいつらこそ、ウィルスにかかってしまえ!」

叫ぶ看護士の肩を軽くたたき

「それは言っちゃダメ、思っていてもね。私たちにできることは限られているとしても、患者のために頑張るしかないわ」

と励ますように言う医師。しかし…

(だけど、国民を助けるために研究所があるのに、国民を実験台にして、研究の成果だけ欲しいなんて。税金で食わせてもらってるくせになんて奴等よ、本当に)

唇をかみながら、診察のため医師は部屋を後にした。


「ああ、だいぶデータは集まったな」

と白髪まじりの男性医師がつぶやく。隣の中年太りの事務管理職の男性も

「これでワクチンや治療薬の開発に一歩先んじられる。まあ念のために打ったA国から贈られた例のワクチンもだいぶ効果があるな」

「我々、感染研の人間が感染したら元も子もないからな。早く薬とワクチンを開発せねば、政府がつぶれてしまう」

「他国は律義に国民をできるだけ多く救おうなどとするから、かえって開発が遅れるのだよ。研究をすすめさえすれば人類全体に貢献できるんだ、そのためには多少の犠牲も仕方がないのだ、ましてや高齢者や持病持ちなんぞ、なあ」

とヒポクラテスの誓いをまるで無視した冷徹なセリフを吐く初老の男性医師。

「そうだなあ、ゲッホ」

ふいに太り気味の男性が咳込む。

「お、おい、どうした、まさか」

心配そうな様子の初老の男性。飛沫感染を警戒してか、思わず後ろに下がる。

「のどの痛みもないのに咳込むとは。なんだかだるい」

太り気味の男性はドカッと椅子に座り込んだ。

「ひょ、ひょっとして防護服をつけないで検体に触ったのか」

「い、いや、そんな危険なことは絶対にしない。第一、この研究所ではそういった備品はたっぷりある。他のところはともかく…。は、はあ、い、息が」

椅子から滑り落ち、床に倒れこむ男性。苦しそうに胸をかきむしる。

「た、大変だ、感染研に感染者がでたあ!」

白髪頭の医師は苦しむ男性を助けようともせず、慌てて部屋を出て行った。


「どうだ、例のニホンでの実験は」

「ああ、順調だ」

金色の髪をかき上げながら、モニターをみる男性。緑の瞳には感染研の研究員、医師、職員たちが右往左往しているさまが映っていた。

「思ったより感染が早いな。まさか自分たちはかかるまいと思って油断していたのか、もともと医者のくせに生活習慣が乱れていたのか」

「まあ、秘密裏に送られた“ワクチン”を何の疑いもなく使ってしまう奴等だからな。せめて中身を分析するなりすれば、まだ救いようがあるが」

「いくら我々の国が実質支配国で、この施設が上の立場だとしても、自国の国民のためワクチンを解析して、大量生産しようとは思わなかったのだな。まあ、予想はしていたが」

「だから、わざと不完全な“ワクチン”を送ったのだろう。かえって重症化するかもしれないという。しかし、この実験が、こうもうまくいくとは。医療機関で安全性の確認されないワクチンを打った医療関係者がどうなるか、ぜひデータとしてほしかったのだ。あの頭の固い老人たちが支配する機関だからロクなことにはならないと思っていたが、最悪のケースだ。新聞にもあったが、悪い見本だな、本当に」

「ああ、感染研の医師たちは出世欲と自己顕示欲は強いようだが、冷静さや慎重さ、分析力が足りないようだ。何より人を助ける気がないのだな、医者のくせに」

軽蔑するような目でモニター越しに初老の医師をみる男性。医師は何重の扉で仕切られた無菌室に一人閉じこもり、がたがた震えていた。いれてくれと懇願する職員、同僚を無視して、自分だけは助かろうとしていた、だが

「まあ、最終的には全員かかってしまうんだ、あの”ワクチン“を打った奴は」

「本当に自分たちだけで使ったのか、もともと本数はそんなにないが」

「まあ、一部の政治家、彼らの好き勝手にやれる予算をくれた奴に賄賂代わりに打ったらしいがな。そいつらもそろそろ発症する」

「そうか、それはちょっと厄介なことにならないか。我々があの“ワクチン”を送ったと知れたら」

「いや、その書類は破棄してるだろう。なんたって都合の悪い文書はすぐにシュレッダーにかける奴等だ。国民を差し置いて自分らだけ助かろうなんて、バレたら不味いと思って、隠蔽工作は完ぺきにしているだろう」

「そういう誤魔化しはうまいくせに肝心なことはダメなんだな。おかげでこっちもデータだとれたが。しかしアイツらがいなくなって、ニホンの感染対策は大丈夫かな」

「まあ、元々国民を助ける気なんかない奴等だ。いないほうが、かえって現場は助かるだろう。あそこの医者も職員も、関係する官僚どもも、ニホン国民のためには死んじまったほうがいいんだろ」

「そうすると、俺たちは結果的にニホン人を助けたってわけか」

「そうさ、ニホン国民のための研究所と称しながら、間接的に国民を苦しめた奴等を一掃してるんだから」

笑いながらモニターを見る男性。液晶画面にはついに初老の医師が発症して、のたうちまわる姿が映し出されていた。


どこぞの国でもなんやかやの理由をつけて一向に検査が増えないようですが、本当のところがわからないと国内だけでなく世界各国で不気味がられるだけのようです。正確なデータを出すことこそ信用回復と思いますが、公文書改ざん、トップが平気で嘘をつく等などをやらかしている国故、トップも含む全国民の命にかかわることでさえ誤魔化してしまうのかもしれませんね。

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