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どれくらい走り続けたろうか…。
鬱蒼とした暗い山の中をシュナは月明かりだけを頼りに走っていた。
息も絶え絶えになりながら目尻に溜まる涙を振り切る様に、ただ小さな足を動かすその後ろには幾つかの松明の火が木々の間からチラチラと覗いている。
捕まるわけにはいかない。
最後に見た、強い意思を秘めた母の横顔が脳裏に浮かぶ。
湿っぽい匂いが鼻をつき、霧で視界が悪くなる。
いくら生まれ育った山の中でも、暗い夜に霧で視界がボヤけていては何処に向かっているのか分からなくなる。
山は夜になるとガラリとその性質を変える。
昼は、甘い密がたっぷりの木の実がなる木々も、蝶や蜜蜂達の集まる花畑がある泉の傍も、夜になればたちまち見知らぬ不気味な闇に変わってしまうのを、夜にしか手に入らない貴重な薬草を摘む母の背におぶられた幼いシュナは見てきた。
「あッ」
木の根に足が引っ掛かり転がり落ちる。
薄れ行く意識の中淡い光を見た気がした。