デス・ゲーム8
次第に地響きが大きくなっていく。それに比例するように俺の心臓の音も大きくなっていく。胸がはち切れてしまうんじゃないかと思うほどだった。
わずか二十メートル先で砂埃が舞い上がっているのが分かった。心臓が陸に上げられた鮮魚のように暴れている。黒い大きな影が動いているのが見えた。
「何かと闘ってる……? もうゲーム開始されてるんじゃないのか?」
「ゲームってテレビゲームじゃないのか? コントローラーも渡されてるのに」
三島は残念そうに手に持っているドリームエンジェルのコントローラーを見つめた。確かに、コントローラーがある以上テレビゲームだと思っていた。それが違うとならば、拡張現実(AR)でのゲームなのか? それなら目の前の黒い影の説明もつく。
「とりあえず、行ってみようぜ」
三島は焚き木に自ら吸い寄せられていく虫のように、何も違和感を持たずに進んでいく。対照的に俺は、足が竦んで、どんどん歩幅が小さくなっていった。
高電圧の何かがスパークしている音が聞こえる。ライトが設置されているとはいえ、もう廃墟になっている園内は薄暗く、必要以上に近づかないと状況が分からない。
ライトの棒状のものが暗闇の中で揺らめいていると思えば、激しい音を立てて火花を散らした。その棒状の根元は一人の少女と繋がっている。
「あっ! あれって白木じゃね? おおーい!」
心細い廃墟の遊園地の中で知人を見つけたことから湧き上がった安堵感のせいか、三島は何も考えず不用意に大声を出して、大きく頭上で弧の形に手を振った。
「み、三島ッ。ちょっと、待て」
俺は咄嗟に三島の腕を掴んで静止させた。
「なんだよ。白木いるじゃん。とりあえずアイツのとこ行こうぜ」
俺たちの存在に気づいたのか、白木はこちらを一瞥した後、顔を強張らせた。
「ダメッ! ここから離れ……」
それが一瞬の隙を生んでしまったのだろう。白木は3メートルはある巨大な何かに腹部を正面から殴られて、数メートル吹っ飛んだ。硬いコンクリートの上を勢いよく転がっていくのが見えた。
「はっ!? えっ。なに?!」
さすがの三島も、ようやく危機感を覚えたのだろう。全身が小刻みに震えだしたのが、後ろから見ていてもよく分かった。巨大な黒い影は、俺たちの方を向いた。そいつは、四足歩行の動物を無理やり二足歩行にしたかのような、歪な出で立ちをしていた。下半身にやけに筋肉が集まっている。静まり帰った園内には、遠くで狂ったBGMと、黒い巨体の顔面と思われる部位から漏れている気性の荒い息だけが響いていた。