デス・ゲーム7
俺たちはこの不気味な空間を一通り見渡した。
「……ここで待ってろって言ってたっけ?」
「言われてないような気がする」
「じゃあ、探すか。なんかゲームが始まっても、俺たちも一応自分のコントローラー持ってるんだから、ゲームが始まっても参加くらいは出来るだろ」
三島はそう言うと、コントローラーを掲げてみせた。
真っ黒なコントローラー。昔流行ったドリームエンジェルというゲームのものだ。小学校くらいのとき、ゲームを好きな奴はみんな持ってた家庭用据え置き型ゲーム機だ。真ん中のDEボタンを押すと、本体と同期し、ワイヤレスで接続することが出来る。DEボタンの左上には電池の残量を示すランプがついている。緑が充電100% そこから黄色、橙色、赤色と変わっていく。赤色が点滅し始めると残り10%以下という表示だ。そのときは本体にコードを接続して、充電しながらのプレイとなる。
「ゲーム会場はどこだろうな」
そう一人で呟きながら、三島は歩き始めた。
「どこ行くんだ?」
「園内ぐるっと一周してみる。誰かに出会えるかもしれないし、ゲーム会場だって見つけられるかもしれない。そんなに広いわけでもないしな」
「俺も一緒に行くよ。バラバラになるとまた集まるときに手間がかかる」
園内に人の気配はなかった。錆び付いた機械の音と、音程の外したBGMが不快ではあるが、それを除けば静かだった。遠くに見える観覧車が光のグラデーションを魅せている。誰もいないのに、コーヒーカップはクルクルと不規則に回っている。
小さいとき遊園地やテーマパークは苦手だった。どう楽しんでいいのか分からないからだ。それは今でも変わらない。絶叫マシンや観覧車に乗っているとき、一体どういう顔をすれば正解なのだろうか。遊園地にいると、いつも惨めな気持ちになる。みんなと同じように楽しめないから、仲間外れにされている気分になる。だから苦手なのだ。
「そういえば、友達と遊園地に来たことなんて初めてだ……」
三島はボソリとそう言った。
確かに三島はこんなところに遊びにくるタイプの人間ではないな。どちらかといえば、休みの日も家で一人でインターネットをして時間を潰しているような人間に思えた。友達も多い方ではないだろう。俺も人のことは言えないが。
三島とはクラスが同じになって、なんとなくつるむようになった仲だ。クラスが変われば、もう話すこともなくなるだろうな。おそらく三島もそう思っているはずだ。俺たちの関係はそんなものだ。
いや……、俺の人間関係がそういうものなのだろうな。
「ん……? あれ? なんか揺れてない?」
「え?」
「ほら……、なんか地面揺れてる……」
三島に言われたので、俺も足を止めて地面を見つめてみる。確かに小刻みではあるが揺れている。耳を澄ますと足元の砂利が小さく振動していることが分かった。一定のリズムで、その振動は大きくなっていく。
「向こうの方……かな? なんか音も微かにしてるし」
「行ってみるか」
なぜかこのとき俺は不安になった。動物の本能だろうか。向こうに行けば、危険な気がする。勝手に近づいて大丈夫なのだろうか。例えば、会場付近の警備員に捕まったりすれば、俺たちは不法侵入で逮捕されたりしてしまうのではないだろうか。
このまま近づいても大丈夫なのだろうか。先に白木に合流した方がいいような気がした。しかし、そんな俺の心配をよそに、三島は音の鳴る方へ進んでいく。