デス・ゲーム6
「……」
白木は声をかけられても微動だにしなかった。沈黙が数秒流れて、俺は自分が無視をされたのだと判断した。白木は先ほどの体制を維持したまま、壁の一点をただじっと見つめている。三島が新しいおやつの封を切った。
「ダメだよ藤松、白木部屋に入ってきてからなんも話さねぇんだもん」
「……」
なんでこいつは喋らないのだろう。俺たちと関わりたくないということなのだろうか。確かに、俺たちはイケてる男子でもないから、女の立場だったら話したくないのかもしれない。
「とりあえずポッキー食べる?」
三島が一本取り出して分けてくれた。俺はそれをハムスターのように端から削るようにして食べていく。
なんなんだこの状況は。なんで俺は墓地の地下にある閉鎖空間で悠長にポッキーなんて食べているのだろう。新しくポッキーの袋を開けるとき、白木がおもむろに動いた。それとほぼ同時にザザザ……、とノイズのような音が部屋に響いた。まるでラジオの周波数を合わせているかのようだった。ノイズが収まると、今度は声がした。
『転送まで残り五分です。準備して下さい。転送まで残り……』
白木は山積みになった箱を漁っている。その間も、放送は終始、転送までの残り時間と準備を促す内容を繰り返していた。
「準備ってなに?」
三島がポッキーを二本ずつ食べながら、悠長に俺に訊ねてきたが、俺だって教えてほしいくらいだ。
「これ……」
「うおっ」
今まで黙秘を貫いてきた白木がいきなり話しかけてきたものだから、思わず声をあげてしまった。白木が差し出してきたのは、ゲームのコントローラーだった。
「なにこれ?」
「ゲームのコントローラー。一人一台自分の持って。裏に名前シールが貼ってあるでしょう?」
受け取ったコントローラーの裏側を見てみると、シールに『ふじいかげひさ』と俺の名前がひらがなで書かれていた。三島のコントローラーも同様に本人の名前が書かれていた。白木が俺たちの方の様子を伺いながら、ゆっくりと控えめな薄い唇を動かす。
「今から、私たちは転送される。そこでこのコントローラーを使ってゲームをする」
「おおっ、やっぱりあの都市伝説は本当だったのか」
白木の説明を聞き終わる前に、三島が鼻息を荒くした。
『転送まで残り三分です。準備して下さい。転送まで……』
アナウンスは三分を切っていた。
「時間がないから、転送されてから説明するから」
『転送まで残り二分です』
白木は自身のコントローラーで、素早くコマンドを入力した。バフが発生したようなエフェクトが白木を煌めかせた。
「一体、どんなゲームをするんだ?」
「……説明が難しいんだけど、狩りみたいなことをするの。大丈夫。貴方たちは私が護るから」
『残り一分です。準備をして下さい。57、56、55……』
秒読みが始まった。俺と三島は無言で顔を見合わせた。手に持っているコントローラーは手汗でヌルヌルになっている。転送って、一体どこに送られるのだろう。
『6、5、4……』
胸が高鳴る。気持ちが高揚する。恐怖と期待が入り混じる。
『3、2、1』
強い光が、部屋の中に降り注いだ。視界が一瞬奪われる。瞼を開けるよりも先に、乾いた風が後ろから吹き抜けた。紙ゴミが地面に擦れる音がした。瞼をゆっくりと開くと、外にいた。色とりどりのカラフルな光が、目の中に飛び込んできた。
「遊園地……?」
観覧車、メリーゴーランド、コーヒーカップ、ジェットコースター、その他諸々のアトラクションが、キレイなイルミネーションを発して稼働している。が、よく見ると何かがおかしい。
胸が踊るメロディの中には、ノイズと耳障りな金属音。外装は穴やヒビ割れで酷いものだった。塗装だと思っていたものはよく見れば、不良たちが描いたであろうグラフィティーで埋め尽くされていた。
「ここ、知ってるぞ」
三島が辺りをキョロキョロと見渡して、そう言った。
「昔に来たことがある。随分昔に閉園されていたはずだけど。藤井も聞いたことあるだろ? KTJって、遊園地」
あぁ、たしか十年くらい前に大事故が起こった遊園地だ。その事故の影響で客足が途絶えて、結局そのまま業績は戻らず、閉園したのだ。現在は撤去もされず廃墟となっていると風の噂で聞いた。
それなのに今は稼働している。音楽も歪な形で流れている。園内には客の姿どころか、従業員の姿も見えない。
「そういえば、白木の奴は?」
「さぁ、姿が見当たらないけど……」