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墓地




 午前0時。

 俺は学校の裏山の麓にいた。

 


 寺までの道はポツポツと灯りが等間隔で並んでいるが、人を探すには心もとないので家から懐中電灯を持ってきた。

 三島はただのクラスメイトの一人でなにもここまでやってやる義理はないのだが、先に警察に発見されて直前に俺に送ったメッセージを見つけられては面倒なことになる。



 証拠隠滅のために早く探さなくてはならない。

 便宜上みんなが裏山と言っているだけで、実際は丘くらいの高さだ。

 山頂までは二十分もあれば辿りつける。その道中に小さな寺がある。


 念のため警察が周りにいないことを確かめた。

 今見つかったら確実に面倒なことになるのは目に見えている。


 俺は呼吸を静めてから耳を澄ませた。

 辺りには鈴虫の声と、風に煽られた葉が不気味な音が空間を埋め尽くしている。

 ゆっくりと歩を進めていくと、目の前に人影が見えた。

 思わず懐中電灯をポケットから取り出し構えたが、光でこちらの存在を知らせてしまうことに気がついた。



 懐中電灯の柄の部分が汗でベトベトになっていた。

 深夜のこんな裏山に一人で歩いている奴なんて危ない奴に決まっている。

 俺は気配を悟られない距離を保ちつつ、その人影の後方を同じ速度で歩いていった。



「おいおい……、勘弁してくれよ……」

 あろうことか人影は分岐点で寺へと続く道へ歩を進めた。

 こんな真夜中になんのようだろうか。

 脳裏に今日は中止にしよう、という思考が横切ったが、明日に目の前の人影がいないなんて保証はない。


 それに今日はたまたま運がよくあいつの後ろをつけることが出来ただけだ。

 明日もうまく気づかれずに寺を散策出来る確証なんてどこにもないのだ。


 やはり、今日しかないのだ。

 長引かせて得られるメリットはなにもない。

 そうこう悩んでいるうちにも、人影は俺を置いて寺の方へ進んでいく。


 寺についた。

 気持ちだけの電灯が辛うじて敷地内を照らしてはいるが、ほとんど暗闇だった。

 ここで三島を見つけることなんて本当に出来るのだろうか。

 人影はなんの躊躇もせずにさらに奥へと進んでいく。

 ここで奴を見失うことは捜索に支障が出ると判断したので、まずは奴の動向を探ることにした。

 本格的な捜索は奴が帰ってからでも遅くはないのだから。


 先ほどの道中と比べて遮蔽物が多いおかげで、より近づいて姿を視認することが出来た。

 髪が長い。どうやら女のようだ。身長は150台といったところだろうか。

 小柄で、その立ち振る舞いから、どこか学生のような印象を受けた。

 もう少し近づいてみると、人影の正体は俺が見たことのある人物だった。




「白木……雪子……? なんでこんなところに……」

 白木は俺には気づかないで、 敷地内にある墓地へと向かっていく。

 後ろ髪が風に煽られて美しく揺れている。


 こんな時間に墓参りだなんて、とんでもない趣味をしている。

 尾行していることがバレれば、どんなことをさせるか分からない。

 そんな独特な恐怖が彼女にはあった。

 いつもは物静かだが、内に秘めている激情を、俺は普段から感じ取っていた。

 それは殺意にも似た感情だった。



 彼女はとある墓石の前で立ち止まった。

 瞬間、彼女は首を回し辺りを見渡した。

 俺の心臓が飛び跳ねたと同時に、遮蔽物に身を隠した。


 バレてしまったかもしれない。

 目は合わなかったが、もしかすると尾行には気づいていて、ここまで人気のないところまで誘き寄せていたのかもしれない。

 様々な憶測が電子パルスがショートするかの如く、一瞬で脳裏を焦がした。

 心臓の音が響いている気がした。

 静かにしろ。落ち着け。



 音を立てないように深呼吸を繰り返した。

 どうなっただろう。

 バレてしまったのか。

 分からない。


 遮蔽物に隠れている間、白木の行動を確認出来ていない。

 このまま帰った方がいいのだろうか。


 明日の朝、奴が立ち止まった墓石を調べるという選択もある。

 しかし、今日三島を発見すると決めたのだから、一度決めたことをそう簡単に止めてしまうのもどうかと思う。



 俺は願った。

 どうか、白木がこちらに気づいてしませんようにと。

 そしてゆっくりと頭を出した。白木の姿は消えていた。






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