デス・ゲーム18 第一章完
「三島君はもう逃げられないけど、藤井君は大丈夫だよ。コントローラーのDEボタンを押すと契約完了になる。そうすればもう逃げられない。魂が本体に登録されて拘束される。ここに電池の残量を表示するランプがあるでしょう?」
三島はそう言われて、コントローラーのランプを見た。さっきよりも鈍い色に光っている。
「これが、私たちの命の残量なの。コマンドを使ったり、時間が経つと減っていく。これを充電する方法は一つだけ。今夜のようにゲームに参加して、クリアするしかない。クリアすれば、充電はまた最大まで溜めてもらえる」
白木は深い瞳で、じっと俺を見つめた。
「だから、藤井くんはDEボタンを絶対押しちゃダメだよ。コントローラーを配布されても、このボタンさえ押さなければ、契約完了にはならないから」
「……分かった」
つまりこれは、コントローラー型コマンド入力機なのか。そしてこれを使用するためには、DEボタンを押さなければならないが、押したら魂が本体に登録されて永遠に今夜のようなゲームを繰り返さなければいけない。
「……今夜のようなゲームを……死ぬまで……」
事の重大さにようやく頭が追いついた三島は真っ青な顔をしていた。
「……今回はたまたま運良く生き残れた。でも、たまたまだ。本当に運が良かっただけだ……。絶対に俺は次のゲームで死んでしまう……。あんな化け物を倒すなんて無理だ……。死ぬ……。俺はもう死んでしまう……」
三島は死ぬということを想像してしまい、声を震わせた。もしかすると、死ぬということ自体が全く想像することの出来ない現象だから怯えているのかも知れないと思った。
「大丈夫……。本当は、私が護りきるつもりだった。ごめん。でも、大丈夫。私の知ってるコマンドを教えてあげるから……。だから、大丈夫」
幼子をあやすように、白木は優しい声で告げた。
「もうすぐ転送が始まると思うから、あの部屋に戻ったら教えるね」
白木に言われるがまま、少し待っているとホワイトアウトしたように視界が一瞬真っ白になった。気がつくと俺は、墓の地下にある部屋に転送されていた。
部屋には先ほどはなかった長方形の穴が開いていた。その先には上に続く階段があった。
「これで、ゲーム一回分が終わり。じゃあコマンドを教えるね。私もあんまり知らないんだけどね」
白木は三島にコマンドを四つ教えた。
・肉体強化
・体力回復
・武器(光剣)
・武器(光銃)
「コマンドによって電力の消費量が違うから気をつけて。それと、コマンドは極力使用しないで」
「なんでだよ。どうせモンスターを倒したら電池は全回復するんだろ? 出し惜しみする必要なんてないんじゃないのか?」
三島の疑問はもっともだった。
「コマンドを使用すると、体に悪いの……」
いつもは無言で返すのに、わざわざ白木が説明したということの意味をもっとよく考えればよかったと、あとになってから俺たちは気づくことになる。
俺たちは出現した階段を登り地上に出た。出口は裏山の古びた一軒屋の室内に繋がっていた。外はもう朝になっていて、俺たちの帰還を祝福するように、山の鳥たちがさえずりをしていた。
俺たちは帰ってきたのだ。
「あと、このことは他言無用ね。殺されちゃうから」
白木はにっこりと笑った。
「次のゲームが始まるときは、コントローラーが振動するから。それ以外の日に墓穴の部屋に来ても、昨日みたいに待ってないといけないから気をつけてね。それじゃあ」
それだけ言い残すと、白木は俺たちを置いて、一人で山を降りて行った。