デス・ゲーム16
鉄の棒が三島の太ももを貫通している。そこから血が絶え間なく流れ続けている。三島は貧血を起こしているのか、顔色が青白くなっていた。呼吸も浅く、今にも倒れてしまいそうだ。
「こういうのって、たしか服とかで強く太ももの根元縛って、血を止めちゃうんじゃなかったか……」
俺は急いで漫画で得た知識を実践してみたが、まず服が上手く破れなかった。仕方がないので、服を脱いで、無理やり太ももに巻きつけた。しかし、血が止まる気配はなかった。そんなとき、白木が近づいてきた。
「三島君、あの部屋で渡したコントローラーまだ持ってるよね」
「え……、あぁ……。持ってる……よ」
三島は意識をギリギリこの世界に留めながら答えた。おそらく、気絶をすればもう意識が戻ることはないだろう。
「出して」
白木の指示通りにコントローラーを取り出す。手が震えている。血が足りていないのだろう。
「三島君、生きたい? どんなことがあっても、生きたい?」
「生き……たい……」
「どんなに辛いことが待ってても、それでも生きたい?」
「……生きたい」
俺には白木の質問の意図が分からなかった。それとは別に、やっぱり普通の人って死ぬことは嫌なのだと改めて認識した。俺はさっき、自分が死ぬってなったとき諦めたのに。三島は太ももに鉄の棒が刺さって大怪我を負ってしまっているのに、まだ生きていたいという。俺に絶対的に足りていない部分。
生きていたいという気持ちが俺の中にはないのだと思い知らされた。
クラスでも目立たない控えめなポジションにいる白木は、ここでも同じように静かに頷いてから、
「……分かった」
と、何かを覚悟したようにそう呟いた。その時、薄い唇が僅かに震えた。
「今から私の言う通りにして。まず、このコントローラーの真ん中のDEボタンを押して」
「……なん……で? これ、関係……ある……のかよ?」
既に虫の息のようになっている三島は、至極まっとうな疑問をぶつけた。この後に及んで、なぜゲームのコントローラーの電源を入れなければならないのか、と。もうゲームは終わったはずだ。あのモンスターはもういないのだから。
「……」
白木は無言のまま、答えなかった。それはつまり、白木の意に反したということだ。三島は理由が分からなくても、白木に従うしかなかった。もっとも、白木は医者でもないので、従ったところで治る見込みはない。
三島はさっきよりも息を荒くし、大量の冷や汗をかいていた。三島の肌の穴という穴全てが稼働しているように思えた。そんな中、震える指先でDEボタンを押した。半透明のドーム型のボタンは、起動すると同時に幻想的な輝きをそのドームの中で表現した。電池残量を表示する小さなランプはマックスを表す濃いグリーン色に控えめに光っている。
「じゃあ、私が言う通りにコマンドを押して」
「おい……おい……」
三島が辛うじて出した言葉がそれだった。もうそれしか言えなかった。俺も人のことは言える立場ではないが、白木もクラスでは相当浮いた存在であることは違いなかった。こんな奴の言うことを素直に聞いて、騙された自分が情けないといった顔をした。三島は悔しさのあまり瞳に涙をためた。
「なんで……、そんなわけの、分からないこと……させるんだよ……」
「……」
「分かった……よ。やれば……いいんだろう?」
白木はコマンドをゆっくりと言い始めた。それは何かの隠語だったとか、そういうことではなく、本当にただのコマンド入力作業だった。
白木が最後のコマンドを言い、それを追って三島がボタンを押した瞬間、三島の体は光に包まれた。