デス・ゲーム10
「あっ……。ドリームエンジェルのコントローラー……」
裏面にはやはり、自分の名前が書いてあるシールが貼られている。
そういえば、白木の奴、このコントローラー弄って、なんかバフみたいなのかけてたような気がする。このコントローラーって、なんだ。でもこのゲームの事情を知っている白木が俺たちに配ってくれたってことは、一人一つずつ自分のコントローラーが用意されているってことは、きっと何かあるんだ。
「三島……、このコントローラーには何かあるぞ……」
頭を抱えて一人言を呟き続けている三島は絶望で光を失った瞳で俺を一瞥したあと、自分のコントローラーを取り出した。それを両手に持っている。
「藤井……。こんなのなんの役にも立たないって。せいぜい人間相手にコントローラーの持ち手の出っ張り部分を後頭部にぶつけることくらいにしか使えないって……」
そう言う三島は、すっかり精神が憔悴しきっていた。そりゃそうだ。俺みたいに毎日暇があれば事故動画や殺人動画を見ている人間と違って三島はただの一般人なのだ。同級生が目の前で吹っ飛ばされて殺される瞬間を見てしまっては、憔悴してしまうのも仕方がないことだ。三島の特徴を言うならば、ただの明るいオタクだ。これが異世界転生とかの冒険ファンタジー設定だったら、こいつももう少し自我を保っていられたのかも知れない。でもこれはただのデスゲームだ。一番最悪の転生パターンだ。転生っていうか、転送だけど。
さっきは俺もテンパっていたけれど、今のこうして妙に落ち着いていられるのは、俺が殺し合いなどに興味があったからだ。現実世界で実際に人間を殺すことは犯罪だし、たとえ罪に問われないとしても周りの目があるから妄想だけに留めていた。例えば、誰もが一度は想像したことがあるだろうが、学校にテロリストがやってきてクラスメイト全員を皆殺しにしたりだとか。そういう皆がする妄想をもう少し飛躍させたものばかり考えて生活していたからかも知れない。
それにこれはゲームだ。だから、殺してもいい。アイツは殺されるためにこの世界に存在しているんだ。そうだ。殺してもいい。殺すことは、今この場だけは正義なのだ。実際に僕はクラスメイトを目の前で殺されたんだ。誰かに罪を咎れようとも、今の俺には正当な理由がある。
「さて……と、どうやって殺すかだな。このコントローラーどうやって起動させるんだよ」
「は……? お前、あの化け物と闘うってのか? 死ぬからやめとけって。それより出口探して脱出した方がいい。人がいるところまで行けば、さすがにアイツも警察か自衛隊に駆除されるって。ゴジラみたいなもんだろ」
そっか……。出口から脱出って手もあるのか。三島は三島なりに、考えていたんだな。それなら助かるかも知れない。
急に現実的な提案をされて、興奮が収まった。よくよく考えると、俺はなんてバカなことを考えていたのだろう。これが漫画や小説でよく読んでいたデスゲーム? そんなこと現実であるわけないじゃん。それに、あんなデカいモンスターとどうやってこんなゲームのコントローラーで闘うってんだよ。確かにこんなプラスチックのコントローラーなんて、せいぜい殺せて人間の後頭部を殴打するときくらいじゃねえか。闘ってたら、死んでたな。
……まぁ、俺が死んでも悲しんでくれる奴なんて、この世界にはいないんだけどな。