腹巻
「あれ?自分なにしてんだ?」
「なんでここに来たんだっけ」
パイパイは逆効果となった色香魔法を解いたらしく、正気に戻った町の男たちは元いた場所へと戻っていった。
俺達は正座をして柱の陰にいるキクとパイパイを見守る。
柱の陰と言っても端に立っている柱のため裏には足場がなく、角度により若干陰になるってだけで完全に隠れきれない。
キクは自分が前に立つことで目隠ししているつもりになっているようだが、はっきり言って見えてます。
だが、俺もクロもそれは黙って横目で覗き見る。
パイパイはキクから腹巻を受け取り、身に着けた。苦渋の決断だっただろう
普段二つ折りにして使われているがそれはせず長く伸ばして使っていた。
その姿を見て腹巻ってこんなに卑猥な衣装だったのかと認識を改めた。
腰の部分は厚く守っているのに、胸やお尻の部分に行くと編み目が伸ばされ薄くなる
キクが着てもこうはならない。
下を隠そうとすれば上がはみ出て、上を隠そうとすれば下が丸見えになる。
なんというギリギリ感。
パイパイは上と下を必死で手で押さえて、目を潤ませながら一瞬こっちを見た
「あー……。にあってますよ」
クロもちょっとやりすぎたと思ったのか、そうフォローをいれた。
その感想は余計だ。むしろ嫌味だ。
クロの言葉にビクッとなったパイパイは顔を真っ赤にさせてしゃがみ込み「見ないで」と弱弱しい声をだした。
「あほか!!!!」
こっちにやってきたキクがクロの頭にゲンコツを落とした。
「女の服を斬るとは、とんだ変態じゃ!」
おっしゃる通りです。
「クロ助はその外套かしておやり」
「えっ」
「か・し・て・お・や・り」
「はい」
クロは不満がありそうであったが、キクの笑顔の圧力にすぐに屈した。
言われた通りマントを脱いだクロは、しゃがみ込むパイパイの背中にかけてあげていた。
「ほれ!謝りい!」
「やりすぎました。すみません」
その場で正座をしてクロが謝るが、かけられたマントをかき抱いたパイパイからはグシュと鼻を鳴らす音が聞こえて来た。
自然と非難の目がクロに行く「泣ーかせた泣ーかせた」てな気分だ。
まあ、俺が提案したんだけども。実行に移したのはクロなわけだし。うん。クロが悪い。
目を泳がすクロの顔は「どうしてこうなった」と言いたげであった。
背中を震わせ続けるパイパイを見て、キクが最終手段にでた。
「クロ助、チューしておやり」
「いやー流石にそれは……」
「ほんじゃあ、責任取って結婚するかね」
「それもちょっと……」
ぐだぐだと煮え切らないクロを後ろから羽交い絞めにする。
「堪忍しな!」
女が初めて顔を上げてこっちを見た。泣いた目が赤い。
「アトル君操られてます?」
焦ったクロがそう聞いてくる。
「ああ、操られてる。すげえ操られてる」
クロのマントで身を包んで立ち上がったパイパイが本当にいいの?と遠慮がちに見てくるので
「遠慮せんでええ」
「一思いにどぞ!」
俺とキクは気持ちよくクロを売った。
駆け寄ったパイパイはクロの唇にそれはそれは熱い口づけをした。
「よし、これで上書き完了だな」
さっきのキスは思い出しただけでも腸が煮えくり返る
まあ、おかげで正気に戻れたのだけれど。
「……捕れないわね」
キスの後、肩に手を置いたまま小首をかしげる。
「っっだから、何度も言ってるでしょう!?」
非難の声を上げるクロを見て、プロパが嬉しそうに微笑む。
「試しにもう一回。今度はもっと深く」
女がもう一度キスをしようとしたら、流石のクロも今度は逃げ出した。
逃げるクロの後ろ姿を見て「ああん。もう!」残念がるプロパに「クロに言い寄るならちゃんと服着てきた方がよいぞ?」とキクが余計なアドバイスをする。
「分かってないわね。男はなんだかんだ言って女の肌に弱いのよ?」
……コイツが言うとリアルだ。生々しすぎる。
「それは間違いないがの、自分の妻には身の堅い女を選ぶもんじゃよ?」
キクの言葉にプロパが言い返そうとしたがそのまま口を閉じた。
「……本当になんなのよ。あなた」
わけわかんないわ。と小さくつぶやいていた。




