つまらぬもの
今、俺とクロは鐘塔の最上階で正座をしている。
目の前には腕を組み鬼のような形相をしたキクの姿。
叩かれた頬がヒリヒリ痛い。
……おかしい。どうしてこうなった?
◆◆◆◆◆
クロが刀を抜きプロパの方へとゆっくりと歩いていく。
俺はキクの前に立ち護衛にまわる。
「斬るの?」
女は両手を広げて笑う。
こいつは、クロがキクの前で人を斬ることを嫌がっていることを知っててやっているのだ
キクの前で人を斬りたくないと思う気持ちはすごくわかる。
キクはこの世界において奇跡のような存在だった。
どこに行っても裏切りと暴力にあふれているこの世界で、よくここまでお人好しでいられるものだと感心する。
人を信じて止まないキクは、馬鹿でマヌケだ。
だが不思議とまぶしい。
このままの状態で一体どこまでいけるのか、つい見守っていたくなる。
きっと失うのは一瞬だから。
クロの腕があればプロパは斬れる。斬ればこの事態は解決する。
だが、その時点で俺らのゲームは負け確定だ。
斬っても結局笑うのはあの女だろう。
だから「手詰まり」とクロは言った。
誰も傷つけずに、プロパに手を引いてもらう方法が思いつかないと。
あの女に明確な目的はない。
強いて言うならクロへの嫌がらせのためだ。
本当にそのためだけの行動のようなので非常に厄介であった。
まったく。随分と歪んだ愛情表現だな。
さっさとクロがキスしてやればいいだろ。そしたら満足して帰ってくれるだろうよ。
そうクロに言ってみたが、それだけは頑として譲ろうとしなかった。
なんてわがままな奴だ。
とりあえず、俺に課せられた課題は
「どうやったら、誰も傷つけることなくあの女を退却させることが出来るか」だった。
クロが近づくと町の男達が一斉に襲い掛かった。
あいかわらず何をどうしているのかは判らないが、次の瞬間にはクロの姿は男の壁を抜け女の後ろにあった。
「やっぱり斬れないじゃない」
女の言う通り、クロの刃はプロパの肌を斬るスレスレで全て逸れていっていた。
それにしてもクロが後ろに現れても驚かない所をみると、ちゃんと見えてたのか。
見えた上で動かないとか頭おかしいだろ。
なんだその絶対的な自信。
それとも相当性格の悪い嫌がらせか。
クロがチンと刀を収めた瞬間、女のブラとショーツがポロリと落ちた。
「つまらぬものを断ってしまった」
「……何言ってんのお前」
俺らの横に戻ってきたクロがキリリとした顔で言うので俺が突っ込むと「一度やってみたかったんです」と笑った。
状況は一変した。
色香魔法が裏目にでたのか周りの男たちが鼻血をたらしながらぱいぱいに迫っていた。
全裸になったプロパは「いやあっ!来ないでっ!やあっ!」と身を縮こませて後退している。
どちらが言うわけでもなく、俺とクロはハイタッチをした。
それにしても見事な技だった。
初めてで、あんな見事に相手を傷つけることなく薄布一枚だけを斬れるものなのか。
「実は猛練したことがあるので」
「何のためにだよ」
「さあ、何のためでしょうね?」
僕にもよくわかりませんと笑う。
なんだそれと俺も思わず笑う。
「なかなか活用する機会がなかったので、ちょっと今感激してます」
クロと俺はなんだかよくわからないうちに、テンションが上がっていく。
上機嫌で語り合っていると、後ろにいたキクがゆらりと動いた。
おや?おかしい。
なんか、キクの周りにオーラが見える気がする。
そのオーラのすごさに俺とクロは汗を垂らしながらおもわず一歩退く。
この日ラクタムの町に、最大級の雷が落ちた。
「正座せえええええーーーーーー!!!!」




