隠れる
気になるのはここの家の人じゃ。
勝手に入ったりして申し訳ないの。後でしっかり謝らねば。
折り菓子で許してもらえるかの?
不法侵入してると思ったら居心地が悪くて部屋の中を行ったり来たりする。
人の気配がしないのでお留守のようじゃが。
それにしても
「……なんでわしが隠れんといけんのじゃ?」
追われてるのはクロ助じゃろう?ならわしは大丈夫じゃろう。
隠れていることをバカバカしく思い始めた頃、何やら外が騒がしくなった。
ここは四階に位置する部屋で、窓から下を覗くと人だかりができているのが見えた。
丁度この建物の玄関にあたる位置だ。
皆手に斧や剣を持って扉を破壊している。
「物々しいのお」
「……」
これはクロ助の言う通りに隠れておこうかの。
ついに玄関が開いたのか、ドタドタドタと大勢が階段を上ってくる音が聞こえる。
あっというまにこの階にたどり着いたようで、隣の部屋から破壊音が聞こえてきて思わず「ひょっ」と声を出てしまい口をふさぐ。
その声が聞こえたかどうかはわからないが、この部屋にあたりをつけたらしい男たちの咆哮とバシッバシッと結界がはじく音が聞こえてくる。
クロ助は本当に結界を張っていったらしい。
結界の威力は自分もよく知っている。絶対ドアは開けんぞ。ゆっくりと後ろに下がり男たちの怒鳴り声に身を小さくする。
大丈夫だと思っていても、こんなに多くの敵意を前にするのはやはり怖い。
クロ助、はよう帰って来んかの。
ずっと続いていた大勢の男の襲い掛かる声とそれを弾く音が突然収まった。
静まり返るドアの向こうから、聞きなれた声が聞こえてきた
「ばあちゃん?」
「!!!」
「あー坊!!」
すぐにドアに駆け寄り開けようとしたが、クロの忠告を思い出しドア越しに声をかける。
「あー坊!無事じゃったか!怪我はないか?」
「ああ、うん。平気」
「そうかい。そりゃよかった。こっちはなんか知らんがえらい目にあっとったんよー」
へえーだかふーんだか言うあー坊の声にうれしくなる。
「ここ、開けて欲しいんだけど」
「それがの、クロ助が開けたらいけんって言うんよ」
わしも早うあー坊の顔がみたいんじゃがの
「は?なんで?」
「……なんでかは、ようわからんけど」
「もうすぐ帰ってくると思うから待ってくれんかの」
「でも、早くしないとこいつ等に……」
そのまま あー坊の声が途切れ、代わりに「ゴッ」「ガッ」と壁に何かが打ち付けられるような重低音が聞こえてきて青くなる。あー坊がリンチにあっとる!
「あー坊!!」
泣きそうになりながら部屋の外に飛び出ると、いたずらっぽく笑うあー坊がそこに立っていた。
特に外傷もなさそうである。
あれまあ。
「……本当ちょろいなあ」




