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屋根の上

 目を開けると、クロ助に包み込まれるようにしっかり抱きかかえられていた。


「お怪我は?」


 と聞かれたがそんなんようわからんわ。足腰が震えて力がはいらん。

 

 一体何なんじゃ?


 何が起きとるんじゃ?


 とりあえずクロ助は大丈夫かなのかと顔を上げた先に、町民たちがとびかかってくる姿がうつった。


「ひっ」 


 次から次へと男たちがとびかかり、積み重なり人の山が出来あがる。それを眺めるわしはどういうわけか屋根の上にのっていた。


 わしを抱えたクロ助はそのまますごい脚力で屋根から屋根へ飛び移っていく。


 こんな脚力があればオリンピックに出れそうじゃの。


 なんて思う余裕などもなく、続く不快な上下運動に耐えるので精いっぱいだった。




 クロ助の足がとまり辺りを見渡すとひときわ高い建物の屋根から更に突き出た相輪のような柱の天辺に立っていた。強い風に煽られクロ助の外套がバサバサ揺れている。



「ひいいいっ なんちゅう所登っとるんじゃ!」


 一歩踏み出せば真っ逆さまじゃ。必死でクロの首にしがみつき非難の声をあげる。


「すみません。被害を最小限に止めたいので……」


 この言葉を聞いてハッと顔をあげる。




 この男、飛び降りる気じゃ。


 自分が死ぬことでこの騒ぎを収めようとしておるのだ




「クロ助!早まっちゃいけんよ」


 慌てて踏みとどまるよう説得する。こんな若い命を散らしちゃいかん!


「何したか知らんが、まだやり直せる!」


 必死に訴えるが、黒い瞳は町を見下ろしたままでこちらを見ようとしない。


「クロ助!」


 クロの頬を両手ではさんで無理やりこちらを向かせる。だがクロはどうしても飛び降りる方向を向こうとするのでハンサム顔が歪んだ


「あの、後にしてもらえます? 今真剣なので」


 ちょっと迷惑そうに頬に食い込んだ手を外される。


「いいや、今じゃ!今じゃないと駄目じゃ!」


 わしも真剣じゃ!



 一瞬こっちを見たがまた再び下を向こうとするので、クロの顔の前へと体をずらし視線をふさぐ。


 クロ助はわしを避けて右に首を傾けるので、わしも右へと顔をずらし視線をふさぎ

 今度は左に傾けるので、わしも左へと顔をずらして視線をふさぐ


「……おばあちゃん、今、ホント、生きるか死ぬかって状況なんです」


 だから邪魔しないで欲しいなあと言外にいわれる。




「そんなん、生きる以外にありゃせんわ!」


 思いつめるクロ助に胸が詰まる。


「死ぬなんて滅多なこと考えたらいけんよ?」



 どうしても視線を逸らそうとするクロに訴える。



「人と話をするときは、ちゃんと相手の目を見んしゃい!」


 叱りつけると、やっとこちらを見てくれた。その困惑顔を見るだけで悲しくなり声が震えた。


「ええか?おまいさんはまだまだ若いんじゃ。人生これか……」




 クロ助が飛んだ。





 説得の途中で、なんでかわしを抱えたまま。


 馬鹿タレ!最後まできかんか!








 突然襲った自由落下でハラワタが絞られるような感覚に息が止まる。


 視界が真っ白になりわしは昇天した。






 ……もっと心静かに死にたかったの。



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