許婚
「なんならわしがなってやろうか」
老婆の許嫁じゃ
ひょっひょっひょっと自分で言って爆笑しておると
「ああ。ではそれで」
わしの傑作の冗談を、笑いもせず気怠そうに同意してくる。
「おまいさんは適当だのお」
呆れて物も言えんわ
「いろいろ面倒くさくって」
「そんなんじゃ一生結婚できんぞ?」
「はっきり言って、結婚する気なんてないので」
「なんでじゃ?」
「一人の方が気が楽ですし、結婚するといろいろと制約されますからね」
なるほど「結婚は人生の墓場」か。
「若いときはいいかもしれんが年取った時に後悔するぞ?」
親が死んで一人になって、気が付いたら自分も老いて足腰も弱って誰も相手にしてくれなくなる
どんなに憎たらしくても家族がいるのといないのとでは雲泥の差じゃとわしの周りじゃあ皆口をそろえて言っておるぞ?
「自分がおじいちゃんになるなんて想像できないですねえ」
「そんなこと言って。あっという間じゃぞ?」
「おばあちゃんが言うと説得力あるなあ」
そういってクロ助はくつくつと笑っていた。
◆
「はああああ?許婚?クロとキクが!?」
素振りの練習に行っていたあー坊に報告する。
「あくまで振りですよ振り」
老婆の許嫁とは、財産目的かのぉそれとも保険金目的かのぉ
わし一人大爆笑だったのだが、あー坊は笑いもせずわなわなと体を震わせている。
(ちゃあんと解放しますから、ほら、彼女に変な虫がつかなくていいですよ?)
クロ助があー坊に何やら耳打ちをしていたが、あー坊の不満顔は晴れなかった。
「おばあちゃん。アトル君も許嫁になって欲グッ」
あー坊の拳がクロ助の鳩尾に入り、クロ助は腹を押さえ悶絶していた。
「あー坊には必要なかろ?」
なんでそんなあー坊の将来を潰すようなことをする必要があるのか。
「あー坊は可愛いお嫁さんを連れてきてもらわんといけんからの」
期待たっぷりな顔で微笑む。
それまで頑張って長生きせねばな
あー坊の顔がみるみるうちに真っ赤になり涙目になり「バッカヤロウ勝手にしろ!!」と駆けて行ってしまった
「なんじゃ?」
老婆の許婚とか、ちょっとおふざけが過ぎたか?
クロの方をみると不憫そうな顔であー坊をみていた。
「流石に八十八歳はなあ……」
「八十八で悪かったの」
好きで年取ったわけじゃないわい
クロ助のつぶやきを聞き取ったわしはへそを曲げた。
「肩でもお揉みしましょうか。おばあちゃん」
ふんっ。お願いしようかの
後日、「おかげで迫ってくる女の数が減りました」とのお喜びの声を頂いた。
世の中の男を敵に回す一言じゃの。




