宿屋
この国に来て初めて宿屋に泊まった。
お風呂もトイレもついてないただの素泊まりの部屋だ。
こちらではこれが標準らしい。
標準どころか、個室で個別にベッドがある分良質なのだとか。
ちなみに今日は二日目である。昨日はいつ町に着いたのかも覚えていない。
一泊で帰るつもりだったが、延長し今日は一日町の観光をした。
観光から戻り夕食をとろうと向かった一階の食事処は丁度夕食時でとてもにぎわっていた。
メニュー表などはなく壁に貼られた絵と、適当に肉、サラダ、パンといった感じで注文していく。
どこの店も注文の定番がきまっているらしい。
慣れているクロ助に全てお任せじゃ
早速運ばれてくる食事に手を付ける。言葉通り手をつける。
「なんか、味気ないよな」
「おばあちゃんの料理の方がおいしいですね」
ここらの料理は基本食材をそのまま茹でる焼く揚げるのどれかである。
後は硬いパンそして、豆やトマトでできたスープ。
味付けはほぼしてない。
かわりに調味料がテーブルにたくさん置いてあり、味付けは各自でどうぞといった考えのようだ。
他人様の作った料理に調味料をかけるなんて、とても失礼な気がして気が引けるのだが、あー坊達をみると思い思いの調味料を次から次へとかけているので、そういうものらしい。
見たことない調味料がたくさんあったので、おすすめを聞きながらかけてみる。
途中あー坊とクロ助の間で揚げた鶏に何が合うかで論争が起こり、どちらも味わってみたがあー坊の方は甘酸っぱく、クロ助の方は甘辛かった。どちらも好みじゃなかったので塩コショウで食べた。
揚げる前に塩コショウしたかったの。
そのまま揚げているでいで生臭さが残ってしまっている。
「前まで、こんなのでもすごいごちそうに見えてたてたのになあ」
そんなことをあー坊がもらした。
◆
翌日
いつもの癖で朝一番に目を覚ましベッドから体を起こす。
一瞬自分の居場所がわからず狼狽えてしまったが、すぐ旅行に来ていたことを思い出し二度寝することを決める。
ふと、隣のベッドに目をやるとクロの横に見知らぬ女が寝ていた。
状況の把握に時間がかかる。
その間に女は目を覚ましうっとりとクロ助の胸板にもたれかかりなまめかしく動き始めた。
寝坊助はまだ目を覚まさない。
あまりの光景に開いた口が塞がらないでいると、クロ助よりも先にあー坊の方が目を覚ました
「おはよ、ばあちゃん。どうし……」
あー坊も一緒に固まる。
わしとあー坊が見ている中
女はクロにぶっちゅぶっちゅと熱い接吻を重ねはじめた。
「見ちゃいかん!!」
あわててあー坊の目を塞ぎ部屋を出た。
とりあえず一階の食堂におりて、あー坊と一緒にホットミルクを注文し無言で飲む。
無言で飲む。
無言で飲む。
無言で
ガタガタン!ドスン
無言で飲んでいると二階から凄い物音が聞こえてきた。
「やっと起きたな」
転がり落ちるように階段を下りてきたクロは二階を見上げる。
「どうして? 私の何が不満なの?」
シーツで前を隠した女が階段の上に姿をあらわした。
どう見てもシーツの下は全裸だ。
急いであー坊の目をふさぐと「なんだよもーいいだろ別にー」と不満を漏らしてきた。
けしからんけしからん!
「なんて格好してやがる!」
宿屋の店主が女の恰好を見て怒りの声をあげた。
「まっず!お父さん」
女は慌てて部屋に戻っていった。
宿屋の娘だったか。そういえば昨日注文とりに来たのは今の子だった気がする。
また惚れられたのか
「おい」
「お父さん」に声を掛けられ、クロ助の肩が跳ねた。
「お前はちょっとそこに座れ」
クロ、背中を向けたまま動かない。
「座れ!!」




