狂気(アトル視点)
一体今度は何をはじめたんだ?
なんでもいいが、そろそろ出発しないと日が沈む。
「おーいそろそろ、行くぞー」
キクの背中に声をかけたが、聞こえていないようだ。
「おい」
いい加減やめろと、腕をつかむとヒステリックに振りほどかれて驚く
また一心不乱に掘り続ける。
素手で掘っているため、爪が剥げて血も出てるのにお構いなしだ。
まるで狂気の沙汰だ。
「なに?そんないいものが埋まってんの?」
またよくわからん根っこの塊でもあったか?
前に回って穴をのぞき込んでみるが何かあるようには見えなかった。
俺の声にキクがやっとこちらを見た。
上げた顔を見てわかった。
コイツ、俺が生き埋めになったと思ったんだ。
よく見ればここは俺が土砂とともに落ちてきた場所だわ。
ここら一体だけ地面が新しく土砂が上から崩れたとわかる。
タイミング悪く、さっき飛んで行った俺の上着が燃え残って落ちていた。
キクは涙と鼻水と泥でぐちゃぐちゃになった顔で、まるで幽霊でも見たような目で俺を見上げていた
馬っ鹿だなあ
「なに?俺が死んだと思った?」
ぶっと笑うと、
鼻の穴を拡げ、大きく息を吸い込み胸をふくらませたキクはキッと目を吊り上げた。
「どこ行っとったんじゃーーー!心配かけよってーーー!!」
あまりの大声に耳の鼓膜が破れるんじゃないかと思った。
両手で耳をふさいでいたら、頭をどつかれた。
「遠くに行くなら声かけて行かんかいっっ!」
続けてクロの脛を蹴ったキクは、ドスドス足を踏み鳴らしながら馬車の方へ歩いて行った。
プンプンと肩を怒らせて歩くキクを見送り、頭を擦りながらクロをチラリと見るとクロも脛を擦りながら俺をチラリと見ていて吹き出す。
癒されるなあ
あんな変な女と会った後だと余計に可愛く感じるな。
キクは崖から無理に降りたのか、打撲と切り傷があちこちに見受けられた。
たぶん俺らの中で一番負傷している。
おでこにできた大きなタンコブとか見るたびに変色していって痛々しい。
クロが回復魔法をかけようとしていたが「こんなん唾つけときゃ治るわ」と取り付く島もなかった。
二人がかりで謝ったが町に着くまでずっと拗ねていた。
結局魔法がかけれたのはキクが寝静まってからだった。




