おっぱい女(アトル視点)
「まさか、こんなところで会えるなんて」
クロに腕をまわした美女は、ルージュの唇で頬にキスをおとす。
あいさつのハグ&キスはそこまで珍しくはないが、この美女がすると卑猥に見える。
「運命 感じちゃう」
クロの知り合いか? どういった関係だ?
「相変わらずのようですね」
諦め顔で身を引いたクロは頬についた紅をぞんざいに拭った。
「ええ。変わらないわ」
無粋なクロの行為を特に気にする様子もなく、クロを見る目が細くなる。
「あなたは『らしく』ないようだけど?」
「あんな雑魚に手こずってどうしたの?調子がわるいの?」
それまでおとなしかったイニド姉弟が「雑魚って誰のことだ」と再びぎゃあぎゃあわめき始めたが、美女がチラリと視線をやるだけで静かになった。
その二人様子だけで、この美女が只者ではないことがわかる。
「相手が口を開く前に首をはねるのが貴方の定石なのに」
美女の長い指がクロの胸を伝う。なにか行動一つ一つがいやらしい
「私がこんなに近くに寄っても動かないなんて」
背伸びをしてクロの耳に唇を寄せる。
「もしかして、溜まってるの?」
お相手してあげましょうか?と小さな声で言っていたが、聞こえてる聞こえてる
「それとも……」
クロの肩越しに俺に目を向けてきた。
うわっこっち見んな
「その子が見てるから?」
エロ女はそんなことを言った。
は? 俺?
「相手が手を出す前に殺しちゃったら流石に体裁悪いものねえ」
エロ女の指がねっとりとクロの顔の輪郭をなぞる。
「あの子の前では正義の味方のふりしたかったのよねえ。かわいい」
クロの腕がエロ女を振り払った。
それをフワリとかわしたエロ女は「図星だった?」とくすくす笑う
「そうそうその目よ。ゾクゾクしちゃう」
クロの顔がどんな顔をしてたかは、背を向けてるため見えないが、それをみたエロ女は恍惚した表情を浮かべていた。
非常に気になるが前に回って見るわけにもいかない。
「今夜、私と熱い夜を過ごさない?」
「いえ、一人で静かな夜を過ごす方がいいです」
「そう?残念」
つれないクロの返事に、案外あっさりと手を引いたエロ女は、こんどは俺の方に近づいてきた。
ゲッ
エロ女は俺の前で立ち止まると、上半身だけかがめて顔をのぞき込んできた。
ふわりと甘い香りが香る
あまりに顔が近すぎて、俺はドギマギしながら後ずさった。
「ふうん。なかなか好い顔つきしてるじゃない」
む、胸が。
やばい。駄目だと思うのに視線が谷間に吸い込まれていく。
唐突にクロの刀がおっぱい女の首筋をとらえた。
「触らないでください」
見ると、気が付かないうちにおっぱいの手が俺の頬へと伸ばされていた。
何か、やばいのか?
明らかなクロの警戒の構えに、俺もおっぱいの手が触れる前に遠ざかる。
「冗談よ。じょ・う・だ・ん」
おっぱいはクスクスと笑いながらクロの腕に絡みつく。
……クロはあんなにベタベタ触られているけどな。
豊満な胸の谷間にクロの腕がはさまれている。
べ、べつに羨ましくなんかないんだからなっ
「でも本当殺さなくてもいいの?」
楽し気だったおっぱいは、つと真顔にかわった。
そっとクロの耳に囁く
「今、殺しておかないと、後で後悔するかもよ?」
「……っ」
苦々しい顔をしたが結局クロは動かなかった。




