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情けは人の為ならず

 魔法石どころではない。あり金も全部持っていかれてしまった。


 こんなことなら、質屋で安く買いたたかれた方がマシだったの

 わしは一体何しにこの街に来たんじゃろうか。



 自分の家に帰りたかったのだ。



 ここは外国で

 帰るためには飛行機に乗らないとならなくて

 その飛行機もここらでは飛んでなくて、飛んでいる国まで移動しないといけない。

 でもその国すらもまだわからない。


 とにかくお金が大量に必要になるということだけは確かだった。


 でも、その金もたった今全部失った。



「おい」



 もう、わしは駄目かもしれん。

 このまま、自分の家にも帰れず死んでいくことになるんじゃろう

 知り合いも誰もいないこの地で一人寂しく。



「おい、お前!」


 噴水の横に座り込み自我喪失していると、ドサっと目の前にカバンが置かれた。

 見覚えのある紐の切れたカバン


「このカバンは……!」


 信じられない思いでカバンにふれる。間違いなくわしのカバンだった。

 顔をあげると、先ほどのコソ泥のボウヤがたっていた。


「これ、どうしたんじゃ」


「取り返してきた」


「取り返してって、どうしてそんなこと……」


 問うと男の子は仏頂面でフンと鼻を鳴らす


「さっき、助けてもらったからな。そのお礼だ」


「ぼうやーーー!!」

 感激のあまり、少年を抱きしめる。



 捨てる神あれば拾う神あり

 そのまま盗むこともできたのに、なんていい子なんじゃ!!



「誰が、ボウヤだ!俺はアトルって名前があるんだ」


 男の子はそう怒鳴ってはいたが、顔は真っ赤になっており明らかな照れ隠しとわかる。

 愛しすぎて抱きしめたまま頬をスリスリしてやると、本気で嫌だったらしく全力で引き離そうとしてきた。











「はーい。鶏でーす」


 こんがり焼けた鶏の足がテーブルの上にドンと置かれる。


 向かい側に座る男の子がゴクリと喉をならした。


 目の前のテーブルには料理が次々と並べられていく。



「なんでも、好きなもんをお食べ」


 カバンのお礼に、料理店に連れていきごちそうする事になった


 アトルは「良いのか?」と聞きながらもすでに骨付き肉を頬張っている。


「よく噛んで食べるんじゃぞ」と言ってはみたが、それどころではないらしく、これでもかというくらい口に突っ込んでいく


 案の定、喉に詰まらせ苦しそうに首を押さえた。

 慌てて近くにあった水を渡すと一気に飲み干し「死ぬかと思った」と言ってまた食べ始めた。

 

 そんなに焦らなくても料理は逃げはせんよ。


「アトルは親がいないのかい」

 

 少し落ち着いたタイミングを見計らって声をかけてみる。

 

 物凄い勢いで料理を平らげていく様は、見ていて気持ちいい。


 よっぽどお腹をすかせていたんじゃなあ



「いない」

「帰る家は?」

「ない」



「それは、つらいのぉ」と同情すると、「もう慣れた」とケロリと答える。

 あまりに平然と言うその姿は逆に胸を締め付ける

 

 本当なら温かい家で思い切り親に甘えている年頃だろうに。

 

 親はもっとそばで見守っていたかったろうに。


 自分の子供の一番可愛い時期じゃ。

 こんな幼子を一人残して死なねばならなかったとは、さぞかし無念だったじゃろうなあ


「よかったら、わしの家に住むか」

「は?」


 それまで食べながら答えてたアトルが、その手を止めた。


「本気で言ってんのか」

 アトルの声はかすれていた。


「かわいそうってわけか……」




 握りしめた拳を震わせるアトルの姿に目を細める。


 これはわしが迂闊だった。


 犬コロのように喜んで尻尾を振ると思っていた自分を恥じよう。


 こんなどん底を生きていても、この子の心根は高潔だった。




「わしも一人でのぉ」


 そう言うと、アトルの態度が少し軟化した「え、お前一人なのか」とびっくり顔で聞き返され「そうじゃ」とうなずく。


「わしはもう歳だからの。一人だといろいろ不便でな、誰か若いもんが助けてくれるとありがたいのじゃが」


「もう歳って何言ってんだ、お前」

「ダメかの」


「まあ、それは別にいいけど……」


「では、決まりじゃの」


 アトルの前に手を差し出す。


「わしは竹葉菊と言うんじゃ。いろいろ助けてもらうと思うがよろしく頼むの」



 アトルは「何でも言ってくれ」と力強く、その手を取ってくれた。




 こうして、アトルが一緒に住む事になった。

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