滝
「すげえ」
「ほお、こりゃきれいじゃの」
「ここ僕の一押しの絶景スポットなんですよ」
眼前いっぱいに広がる大自然。
まぶしい緑の中あちらこちらで高低大小様々な滝が下へと落ちている。
大量の水が落ちる音が耳に気持ちいい。
車を適当なところで止め、クロの案内のもとたどり着いたその場所は崖の中腹に位置し数々の滝を見上げることができるうえに、下を見れば渓流を見渡すことができる絶妙な位置であった。
舞い上がる水しぶきが光に照らされて虹がかかる。
最初からお昼はここで食べる予定で正午にはつくように出発したらしいのだが、予想以上に時間がかかり正午はかなり前に過ぎていた。
おかげでもうお腹ペコペコじゃ。
早速作ってきたお弁当を広げる。こんな壮大な自然の中食べるお昼は格別だった。
途中で何度も諦めて食べようとしたが、ここまで我慢してよかった。
馬車に揺られる中で食べてしまっていたら全部台無しになっていた。止めてくれたクロに感謝じゃ。
さっきから滝の音と共にドーンドーンとどこかで花火があがる音が聞えてくる。
「どこかでお祭りでもやっとるのかの?」
リンゴも持ってきたのでその場で切って二人に手渡す。
クロが買って来た包丁セットのなかに持ち運びができる鞘つきの小型ナイフも入っていたのだ。
初めて使ったがこれも切れ味は抜群だのう。
うっとりしながらナイフの刃を眺めていると、怖いから止めろと言われてしまった。
この旅の目的地はここで、今日は近くの町で一泊して明日帰る予定らしい。
町はすぐなので夕方まではここでゆっくり羽を伸ばすことになった。
朝からずっと馬車に揺られっぱなしで、すっかり固くなった体をのばし横になる。真っ青な空が視界いっぱいに広がった。
のどかだのお。優しい風を感じながらそのままひと眠り。
そのあとは野イチゴの群生地を見つけたので摘んで、ついでにショウガを見つけて掘りだしていると、今度はイノシシがいた痕跡を見つけた。
これはもしかして捕まえられるかもしれない。
早速馬車に行き荷物をくくるための縄をとりに行く。
クロ助がわしの後をついてきて作業を手伝ってくれている。
あー坊は熱心に滝を眺めていた。
よっぽど気に入ったんじゃな。
崖っぷちギリギリに立っているので見ていて怖いが。
「落ちんといいがの」
さっき気をつけるよう言ったばかりなのでもう黙っておく。
男の子には馬の耳に念仏じゃ。
気にするのはやめ、手にした縄でせっせとイノシシ捕獲の罠を作り始める。
うまくすれば明日は豚の生姜焼きが食べられるかもしれんの。
あーでもないこーでもないと何度もやり直しながら何とか張り終えて顔をあげると、崖っぷちに立っていたはずのあー坊の姿が無くなっていた。
よくみると傍にいたはずのクロ助の姿も見えなくなっている。
「あー坊?クロ助?」
呼びかけてみるが、帰ってきたのは大量の水の音とどこかで上がっている花火の音だけであった。




