問題ない(アトル視点)
クロがキクには危害を加えないと判断したのはもう一つある。
あの時、この家でクロと目があった時、
三つ目オオカミに囲まれて助けを請う俺を、無感情な目で見ていた。
侵入者のこいつにとって目撃者の俺達は物言わぬ死体になった方が都合がいいのだと悟り、俺は絶望した。
だが、倒れているキクに気づいたクロはあからさまに態度をかえた。
「まだ息はありますね」
廊下の向こうにいたはずの男の声が唐突に自分の背後から聞こえた。
キクの元に膝をつき首筋に手を触れている。
遅れて空気圧が肌をすり抜けていくのを感じ、同時に目に映るモンスターが一斉に倒れた。
速やかにキクの背中の服を切り裂き、ポケットから何やら小瓶を取り出し中の液体を背中にかける。
キクが苦悶の表情をうかべた。
「薬です。こうしたほうが治りが早い」
動揺する俺を腕で制す。
キクの傷にかざしたクロの手が光に包まれた。
その光にあてられた傷がみるみるうちに塞がっていき、キクの呼吸も落ち着いていった。
その手際の良さに舌を巻く。先ほどの俺への態度と随分ちがうじゃないか。
あれを気のせいと片づけるほど俺は馬鹿じゃない。
クロは初志貫徹を放棄し疑惑の目が自分に向くことをわかった上でキクを助ける事を選んだ。
コイツが何者かはわからないが、キクには危害を加えない。
それだけは間違いない。
それさえわかればとりあえず問題はない。
そう考えていた。
この数日後
問題大有りだったことを思い知らされる。
クロの抱えるトラブルに巻き込まれて俺達はとんでもない目にあうことになる。




