キクのために(アトル視点)
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
聞きたくなかった。
是非、その冒険談をクロの口から楽しく聞きたいと思ったのだ。
後日苦難を共にした仲間を殺しましたなど、先に聞いてしまったら全部台無しだ。
そこは言わなくていい捏造していい盛ってくれていい、自分勝手だと思うが、美しい聞き心地のいい話だけ聞かせて欲しかった。
「おそらく、君の想像であっていますよ」
ペロリと告白され、気分が沈んでいく。言わなくて良いってのに!
「前の推理もお見事でした」
そう言ってにっこり微笑んでくる。クロは一体どういうつもりでこんな告白をしてくるのか。
肝心なことは言わない癖にこういう内容の情報だけ漏らしてくる
「今更ですが、そこまでわかっててよく『僕』に剣を習う気になりましたね」
本当今更だな。
理由は単純。キクを守れるようになりたかったからだ。
ただ、そのためには問題があった
「俺、まったく金持ってないからな。剣を習いたくても報酬がだせない。だから……」
少し言うのに抵抗があり、頬を染め口をそぼめた
「……お前なら、脅せるかなって」
思った通りクロが吹き出した。
「だから笑うなっっ」
「いままで教えを請われたことはありましたが、脅されたのは初めてです」
そもそも僕を脅そうと考えるのは君くらいなものですとおかしそうに笑う。
まあ、俺もⅠ群だと知った今では頭いかれてるんじゃないかと思うが
あの時は切羽詰まっていたんだ。
「それでも、危険な賭けだと思いますけどね。大切なおばあちゃんを殺されたら元も子もないでしょうに」
自分で危険とか言うな。
「そこは心配ない」
「あんた怪しいけど、キクに危害加える奴じゃないってわかってたからな」
「へえ、どうしてです?」
「あんたがクマリンで鞄盗んだのは、キクの為だろ?」
「あの連中はキクの鞄を狙ってた。クロが盗まなかったら、キクは鞄を盗られた挙句あの連中の玩具にさてた」
そうやって弄ばれて打ち捨てられた女は貧民街ではよくみかけるのだ。
「それは買い被り過ぎですよ。あれは大金に目がくらんだ出来心です」
「これで一生遊んで暮らせると思っていたらガラの悪い連中に囲まれるし、鞄は盗まれるし、まさに踏んだり蹴ったりでしたよ」
ふん。
Ⅰ群が何を言う。
「そういうことにしておいてやる」
「そうして下さい」




