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番外編 キクと刀 5

「でも、まあ、仕方ないの、背に腹は代えられぬからの」

 クロの剣を掴むキク。

 すかさずクロが押さえる。


「……」


 二人の視線が合わさった


「しっかり消毒する!お清めの塩もまいておくから、大丈夫じゃ」


 何とか剣を取ろうとして、両手でつかんで引っ張る。


「そういう問題ですか!?」


 クロも絶対渡すまいとしっかり握る。


「塩とか絶対やめてください」


 二人の剣の引っ張り合いを他人事のように眺める。


 これは、剣士と料理人の刃物への扱いの違いなんだろうな。

 どちらも得物に対する情熱に引けはとらないのだが。何せ方向性が違う。


 白い肌が真っ赤になるほど全力で引っ張るキクに、困り果てたクロが何とかしてくれと目で俺に訴えてきた。


 クロは俺がキクの扱いに慣れていると思っているようだが、そんなことはないからな?


 クロがその気になれば、非力なキクを引き剥がすことなど造作もないはずなのだが、あまり手荒な事はしたくないんだろう。

 無理やり引き離すどころか、引っ張ってる拍子に剣が抜けてキクが怪我しないように気を配っているし。


「ばあちゃん、もう諦めろよ。クロが困っているだろ」


「いやじゃああ!人斬るより食べ物切った方が、有意義じゃ」


 ……違いない


 クロにもクリティカルヒットしたのか肩が少しビクッとなった


 致命傷を負ったとおもわれるクロは黙って立ち上がりキク付きの剣を頭の上まで持ち上げる。

 キクは頑張って背伸びをしてついて行っていたが、ついにつま先が宙に浮いた。


 ぷらーんと剣にぶら下がる形になったキクは目を閉じ唇を噛みしめ「んーー」と耐えていたが一分もたたないうちに限界が来たらしく、涙目になりながら眼前にあるクロの瞳に向かって訴える作戦に移行していた。

 それに対しクロはにっこりと微笑み返す。


「駄目です」


 言うと同時にキクが落ち、後方にバランスを崩し尻もちをついた。

 床に座りこんだまま「なんてケチなんじゃ」と恨めし気にクロを見上げている


「すみません。本当この刀は勘弁してください」

 解放された剣をいつも通り腰に着ける。


「代わりにいい包丁買ってきますので」




 その後クロは何処かへと消えていき、帰ってこなかった。


 キクは家の包丁で芋の皮をむこうとしては「切れない」、肉を切ろうとしては切れないと何度もつぶやきため息をついていた。

「刀よかったの。あの刀。はやく帰ってこんかの」


 懲りずにまだ使う気か。俺もできれば人を殺した剣で作った料理は食べたくないぞ。


 クロの憔悴した顔をおもいだす。




「……もう帰ってこないんじゃね?」

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