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番外編 キクと刀 3

 キクの必死の平謝りで、ロウジンホーム送りはなんとか免れたようだ。


「ロウジンホーム送り」なんて口から出まかせなのだが、キクは本気で信じ込んでいる。

 そして心底恐れている。


 そんなに恐ろしい所なのかロウジンホームって。


 剣を手にし部屋に戻ろうとしたクロがふと、何かに気が付いたように振り返った。


「まさか、これで料理したりなんかしてませんよね?」

「おお、よーく切れたぞ!」


 頬を赤く染めながらクロの剣がいかに切れ味が素晴らしかったか語りだすキクの横で、クロの顔がサアアアっと青く染まっていく。


 ガタンと剣を床に落とし、口に手を当て速やかに外に出て行った。

 遠くで嘔吐する声が聞こえてきて、俺も冷や汗がでてきた。


 こええよ

 一体その剣で何を斬ってきたんだ



 吐き気の止まらないクロと裂けた鞘を見比べ

「そんなにショックじゃったか」

 悪い事したとキクがオロオロしていた。



 30分はそうしていたクロは、なんとか吐き気が収まったらしく戻ってきた。


 

「大丈夫か?」

「大丈夫で…ゥッ」


 全然大丈夫じゃなさそうだ。


 ゲッソリとしながらソファに深く座り込んだ。

 クロの足元に膝をついたキクがそっと水を手渡し、心配そうにクロの顔色をうかがう。



 それから「これなんじゃが」といってクロの剣をそっと差し出した。


 それを見て俺は思わず声をあげそうになった。

 差し出された剣は、鞘の割れた箇所に紙が数枚のりで貼りつけてあり、それでは締まりが悪かったのかその上から紐でグルグル巻きにして固定してあった。


「なんとか、直そうとしてみたんじゃが」


 確かにきつく縛ってあるおかげか剣を傾けても滑り落ちなくはなっていた。


 キクなりに壊してしまったのを申し訳なく思い一生懸命修復したんだろう。

 したんだろうが、これは酷い。完成度が低すぎる。

 たぶんそのままの方が良かった。


「本当すまんのお。わしのせいで……」


 眉を下げ申し訳なさでいっぱいの瞳でクロを見上げている。


 キクとの感覚のギャップがすごくて辛い。

 これを慈善心100%でやってのけるキクは最強すぎる。


「わしに出来ることなら何でもいってくれ」





 クロは弱弱しい手取りでつぎはぎの剣を受け取り、絞り出すように声を発した。


「おばあちゃんは刀に触るの禁止です」



 ◆



 次の日、ソファでおやつを楽しみながら寛いでいたら、台所で晩御飯の準備を始めたはずのキクがエプロンで手をふきながら、近づいてきた。


「クロ助、頼みがあるんじゃが」


 ちょっと言いにくそうにキクがクロを伺う。


「なんですか」


 警戒心丸出しで、クロが対応する


「刀を」

「駄目です」


 最後まで言わせることなく、即ぶった切る。


「今度はちゃんと向きを見て仕舞うから大丈夫じゃ」


二カッと笑って両手を差し出す。


「駄目です」


「そこをなんとか」


「駄目です」


「ほんのちょっとだけでええんじゃ。お願いじゃ」


 頼む!と胸の前で手を合わせる。


 キクは「剣で料理した」のが問題だったのではなく、「剣(鞘)を壊した」のが問題だったと思っているようだ。

 本当は前者のほうが問題なのだが

 まあキクは昨日もちゃんと使っていいかとクロに聞いたと言っていたしな。


「これで料理とか絶対にやめてください」


 気分が悪くなるとクロは言う。


 俺も食べたんだあまり不吉なこと言うなよ。



「もんすたも鶏も大して変わらんじゃろうが」



 なるほど。

 キクの認識ではそうなるのか。

 クロはモンスター退治の得意な人くらいな認識。

 まさかクロが人殺しをしているなんて思ってもいないのだろう



 クロとキクの根本的なズレがそこにある。


「……モンスター以外も斬っています」


 クロも食い違いの原因に思い当たったようで目元に手をやり、ため息をついた。


「もんすた以外?」と赤い目が瞬く。


 クロはきょとんとしているキクの腕をつかみ、すっと目を細めて、その目を覗きこんだ。

 そしてゾッとするくらい冷たい声を発する。


「人間」


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