早朝訓練(アトル視点)
俺の人生の中で、クロは最強で最高の師匠であったのだが、朝にはめっぽう弱かった。
朝、キクに叩き起こされてテーブルに着くも目が開いていない。
放っておくと昼まで起きてこないクロは
「朝は食欲がないんです……」
朝食は要らないから寝かせてくれとキクに嘆願していた。
「いいや!一日の始まりは朝食からじゃ!しっかり食べ!」
キクはそんなクロの声に全く耳を貸さず、口に無理やり押し込んでいく。
押し込められたクロは「飲みこんで」と言われるまでそのままモグモグと永遠と噛んでいる。
傍からみれば男女の「あーん」という羨ましい光景なのだが
干し草を食べる牛のようにぬぼーとしているクロとその口に食べ物をねじりこむキクの姿をみたら、ちっとも羨ましい気持ちにならない。
こんなに美味しい朝食を要らないというクロの気持ちが理解できない
パン一切れも食べれない奴だっているのに勿体ない。
そして、なんとしてでも食べさせようとするキクの強情さに苦笑いする。
そのまま早朝訓練。
朝食食べ終わるといそいそとベッドに戻ろうとするクロをキクが外へと追い出した故だ。
外に出ても未だにウトウトしているクロに向かって何度も切り込んでみたが
欠伸交じりで全部弾かれる。
その間クロは一歩も動いてないければ、こっちを見てもいない。
こんな櫂を漕いでいる奴に一撃も入れられなかったショックと、立ったままいびきまでかきはじめたクロの姿に腹が立ち、バケツに水を汲んだ俺はクロの元へ走りその勢いのまま水をぶっかけてやった。
ずぶ濡れになったクロは目を瞬かせていた。
流石に目が覚めたようだ。
血管ピクピクさせながらバケツをもつ俺をみて、状況を察したようだった。
「……スミマセン。まじめにやります」




