デジャヴ(アトル視点)
黒い瞳が俺を射る。
俺はそれを静かに射返す。
肌がぴりぴりするほどの緊張の瞬間。
クロはゆっくりと手をあげたかと思ったら胸元あたりから途端に早くなり口に手を当てぶぶーッと噴き出した。
シリアスな雰囲気が一気に吹き飛んだ。
「いやっ、ごめっ! まさかそうくるとは思わなくて」
すごい慌てて言い繕い始めた。
「……」
コホンと咳をひとつして
「それは……やむを得ないですね。でも絶対秘密厳守でお願いしますよ」
キリリとした顔をしながら、空気を改めようとしていたが、もう無理だろ。
顔は真剣な表情を浮かべているくせに肩が震えており全然笑いを耐えきれてない。
笑ってはだめだ。相手はあれで真剣なんだ。笑うのは失礼だ。耐えろ。耐えるんだ。笑ったらだめだー!!
と思われてそうな気がする。
その反応で顔から火がでそうになる。
「わらうな!」と言った瞬間、声を殺しながらも爆笑しやがった。
俺は思い切り息を吸い込んだ。
「わあああああ!!!!ばあちゃーーーーん!!!!!」
「うわっ!?」と慌てたクロに口を塞がれる。
「なんじゃ?」
俺の大声にすぐにキクが駆け付けた。
さて、『強盗』に続き『少年強姦魔』に仕立て上げてくれようか
俺を押し倒し、口をふさいでいるこの状況、逃げ場はないぜ?
ニヤリと笑う俺を見てクロは全て察したようだ。
「わかりました!教えますから、ホント勘弁してください」
必死な形相で懇願してきた。
ザマァ
◆
キクには何でもないことを告げ洗濯に戻ってもらった。クロを連れて適当な模造剣を手に取り外にでる。
適当な距離をとって向かい合ったクロは、俺の顔をみてまた噴き出した。
懲りねえなっ!こいつは!
イラっとしながら肩を震わせるクロへ打ち込む。
首が飛んだ。
俺の首だ。
今、何が起きた?
瞬殺だった。
こんな簡単に殺されてしまうとは。
やはり自分は目障りだったか
「握りはできてる、踏込の足も間違ってない。少し教わったことがありますね」
あるはずのない耳から声が聞こえる
「ですが、踏込が弱い、顎も上がりすぎ、脇が開いてる、何より大振りすぎて欠伸がでるほどに遅い」
楽し気に言いながら悪い個所を剣でトントンと叩かれる
まだ、首は繋がっていた。
冷汗が噴き出た。
「基礎からですね」
◆
基礎の素振りの形から教えてもらっていると、キクが出てきて「わしもやる」と言い出した。
キクの力量を図るための最初の打ち込みを見学する。
持ち手が違うし剣先がブレブレだ。
クロが俺の打ち込みをみて齧ったことがあると評していたが、なるほど、これが素人か。
そのままキクはクロの手前で自分の右足に左足を引っ掛け転んだ。
起き上がったキクは両肘両膝そして顔から出血していた。
前言撤回、これは素人以下だ。
「俺、自分の足に躓く奴はじめてみた」
恐ろしいほどの才能の無さに震える。
キクの手から離れ自分の方に勢いよく飛んできた剣を叩き落したクロが、恐ろしいものを見たかのように目を見開き震える手で額を押さえていた。




