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何者(アトル視点)

 こいつがまともではないことは、わかってたことだ。

 分かったうえで、俺は助けを求めたのだ。それしか助かる方法がなかったから。


 最高司祭様の使いという話がでてきて、すっかり気が抜けてしまっていたが。


 

 クロはなるべく穏便にキクをここから追い出したかったのか


 結果はキクのわけのわからないペースに乗せられて、なぜか一緒に住むことになっている。


 すげえよキク。なんてことしてくれたんだ。


 


 俺に何ができる?

 

 キクに話すか?

 いや、話してもキクのことだ、真に受けてくれない。


 キクはなんというか、すっごく頭が固い。

 一度思い込んだら、どんなに矛盾したことがあっても信じ込む癖がある。


 説得しきれる自信がない。

 下手にキクに話すことでクロに不審に思われたくない。逆に危険だ

 

「無力だなあ、俺」


 キクを守り切れるほどの力が欲しい。

 

 

 キクが血に染まっていくのに何も出来ない絶望感

 あんな思いはもう懲り懲りだ。


 背に腹は代えられない。


 俺は意を決した。




「おい」


 一階のソファに座り剣の手入れをしているクロに声をかける。


「あんた何者だ。最高司祭様の使いじゃないだろ」



 キクは外で洗濯中だ。


「君の方こそ何者です? 貧民街出身にしては教養があるようですが」


 思いがけない切り返しに心臓が跳ねる。


 教養?そんなものどこで判断しているんだ。自分はりっぱな乞食にしか見えないと思うが。


 動揺を抑え息をはく。

 慌てるな。元からまともな返事なんて期待してない。


「キクに言って来ようかな。クロは最高司祭様の使いじゃなくて、ただの強盗だって」


「……」


「あんた、ここに何探しに来たんだ?」


 ソファのひじ掛けにもたれながら口を閉じたクロを問い詰める。



「あまり詮索しない方がいいですよ。でないと……」


「俺の事殺す?そうだよな、最初はそのつもりだったんだから」


 剣の手入れの手が止まった。



「なあ、そうだろう? オオカミに食われるの傍観してたもんな。お前」


「あんな書斎を荒らしまくって住人にどう言い訳するつもりだったんだ?」


 クロのソファから手を離し歩く


「ああ、言い訳する必要もないか。皆殺しにするつもりだったんだから」


 皮肉りながらクロの向かいのソファに腰を下ろした。


「だから、あんな堂々と玄関から入ったんだよな?」


 クロを見ると薄笑いを浮かべている。図星か。



「でも、俺が殺されたら、キクのやつショックだろうなあ。お前の事許さないだろうなあ」

「……何が言いたいんですか」


 やっと、クロの目がこちらを向いた。

 俺はいたずらっぽい笑顔をうかべて見せる。


「黙ってて欲しいか?」


 俺は賭けに出た。

 皆殺しにするはずだった住人を助けることにしたのはおそらく


 キクがいたから。

 

 理由はわからないが

 こいつにとってキクは特別な存在らしい。



「まあ、そうですね。出来れば」


 よし、かかった


「なら、俺に剣を教えてくれ」



「はい?」


「バラされたくなければ剣を教えろって言ってるんだ」


 ニヤリと笑う。


「そしたら、キクには言わないでおいてやる」


 視線がぶつかる。


 さあて、乗るか反るか。



 俺は乾いた唇をなめた。


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