酔狂
「俺も登録しようかな」
あー坊の言葉に驚く
「なんでじゃ!?そんなんせんでええ」
「おもしろそうじゃん」
「全然面白くないぞ。命かける順位付けしとるだけじゃないか」
「オリンピックとはわけが違うぞ」
「おりん……?」
「野球選手でも、サッカー選手でも、何でもなりゃええ。それならばあちゃんも応援してやろう」
「でも、これはいかんぞ!」
「ばあちゃん、ちょっと落ち着けって、え?なんだって?」
これが、落ち着いていられるもんかい。
「ええか、あー坊!平穏な日常が一番なんじゃ」
「そんなのつまんねーよ」
「詰まってなくてええんじゃ。死んだらそこで終わりなんじゃぞ?」
「おい、クロ何か言ってやって」
あー坊はフランの大ベテランのクロ助に助けを求めた。
「僕もおばあちゃんの言うことに同感です。普通に考えたらこんな金額で命かけるなんて割に合わない」
「そりゃ、クロから見ればな」
何千万ドパも稼げる人から見ればはした金だろうけどさあ……とあー坊の口が尖る。
「なら、来てみますか?Ⅰ群レベルが次々に即死していく世界ですが」
クロは目を細めてあー坊の妬みと羨望の視線を受ける。
わしはたとえどんな大金積まれても戦争の最前線に行こうとは思わない。
行かせようとも思わない
そんなのは物好きにまかせときゃええ
大金など必要ないから、安全で心静かに生きる方がいい
「それなのになぜか、この血生臭い世界が楽しい世界に見えて来るんですよね」
「目が覚めるのは、痛くて苦しくてでももう助からない今際の時です。涙を流して語る人を何人も見てきました」
「おばあちゃんの感覚の方が正常なんですよ。アトル君の感覚は酔狂と言うんです」
クロ助の真っ当な意見にほっと胸をなでおろす。
ここでクロ助に「楽しいから入れ」などと言われたらどうしようかと思ってたところじゃ
「なんでクロはまだやってるんだよ」
「僕はもう戻れないんですよ」
そう言って笑うⅠ群に複雑な感情を見る。歳のわりに酸いも甘いも噛み分けた表情をしていた。
「じゃあ、クロも俺の登録には反対なのか」
「僕としては絶対反対なわけじゃないですけど。目的ではなく、手段として使うのはありだとおもいますよ」
そこは、はっきりきっぱり反対と言わんとな!こういうところはクロ助もまだまだ青い。
最初の気持ちはどうであれ、呑まれるに決まっておる。
人は朱に交われば赤くなるのじゃ!
「絶対無しじゃ!」
わしの断固反対の姿勢に、今回の登録はあきらめてくれた。
あくまでも、「今回の」である。
あー坊が虎視眈々と狙おうとしているのがわかる。目を光らせておかねば。
祝50話目!この機会にぜひ評価をおねがいします。感想もあると嬉しいです^^
フランの活動はもう少し先になります。今から土台作り。




