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剣術道場

 ハロタンを失い車を使えないわしらは仕方なしにクマリンまで歩いた。

 またハロタンを買うしかない。

 もはやミルクなしの生活は考えられない。


 いつもなら恐怖の道のりだが、今日は心強い連れがいる。


 朝は情けないが、目を覚ましたクロ助は頼りになる。


 ……と信じとる。

 実際妖怪を倒す姿を見たことがないので何とも言えないが。




「またでた」


 途中早速、例の妖怪が一匹こちらに向かって走ってくる。

 ラナから教えてもらった威嚇弾でいつもなら追い払うが今日は持ってきていない。


「この辺りは三つ目オオカミの生息地ですからね」


 余裕で一歩を踏み出すクロ。対しわしは一歩下がる。

 そんなわしを見て、クロ助は刀に添えていた手を何故か降ろしてしまう。

 そしておもむろにかがみ地面に手をつく


「三つ目オオカミの弱点は、額の目です」


 そう言って飛び掛かって来たオオカミをひょいと避けて、今し方拾っただろう砂を額の目に投げつける。


 その、「ひょいと避ける」が出来ないんじゃがな。


 本当に劇的な変化があった。


 三つ目は身を捩じらせ、頭を地面に擦り付けのたうち回る。

 あまりの痛がりようにあっけにとられた。


 出会ったときは額の大きな目が不気味で怖かったが、

 あんな位置にあんな大きな目があると、上からのごみが入りやすくて邪魔になるんじゃないかの。


 そのまま三つ目オオカミはすたこらさっさと逃げていった。

 おそらく目を洗いに行ったのだろう。


 恐怖の対象だった妖怪のあまりにもマヌケな姿に呆然となる。


「ほら」


 とクロ助は手のひらを上に向けて肩をすくめてみせた。



「三つ目オオカミは倒したら、肉は不味くて食べれたもんじゃないですが、毛皮は良い値で売れますよ」

 という豆知識まで教えてくれる。


 完全に、「狩られる」立場ではなく「狩る」立場の意見である。


「それは、逃がして勿体ない事したの」

「いえ、僕には必要ないので」


 おお、余裕な大人の上からの意見じゃ。


「すげえ」


 あー坊がキラキラと目を輝かせてクロ助の話を聞いていた。


 本当男の子はこういう話が好きよの


 あー坊はあれ以来クロ助から剣を習っている。


「アトル君が強くなればもう心配ないでしょう?」とはクロ助の意見。

「……気づいておったのか」


 わしがクロ助を引き留めた本当の理由を。


「あんなに怯えた顔をしてたらわかりますよ」と苦笑される。

「老人ホーム送りにはせんのか?」と聞いたら「そこはまあ、今後のアトル君の頑張り次第になりますね」

 身を守る手段があるなら問題なしという判断らしい。


 こんな物騒な世の中、わしも身を守れるようになってた方がいいかもしれんと思って

 クロ剣術道場に入門したら、最初の打ち込みで派手に転んだ。


「おばあちゃんは、もう歳なんですから無理しないでください」


 と、気遣われながら優しく破門された。


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