赤髪の差し金
「それで、玄関を開けたのはおまいさんだったのかい」
「はい」
「何をしにここに来たんじゃ?」
「それはその……」となんだかはっきりしない。
「わしを追ってきたのか?」
怖いの怖いの。執念深い男は怖いの。
「いや、まさか! あなたの家がここだとは知りませんでしたし、本当偶然です」
気持ち悪がるわしを見てそこははっきりきっぱりと否定してくる。
「じゃあ、なんでじゃ」
「通りかかってたまたまは、ちょっと無理がありますよね……」
「そりゃ、無理あるの」
こんな山の中にたまたま通りかかるわけなかろ?
黒髪の男は視線を床に向けしばらく悩んでいたが
「良い言い訳が思いつかないので、触れないで頂くとありがたいです」
考えるのを放棄して、さっさと情状酌量を求めてきた。
どうしても言えない事情があるらしい。
「結界会社の者じゃないんじゃな?」
「結界会社?」
「契約更新してもらおうと営業しに来たとか」
未納金の集金に来たとか。
「すみません。話がみえないんですが……」
違うらしい。
まあ、それならそうとすぐ言うか。隠す必要がない。
と、なると。
この場所を知ってて、家の中まで入る必要があり、わしに言えない事といえば
ははん。なるほど。
「わかった! おまいさん、赤髪の差し金じゃろ」
「……赤髪ですか?」
「スカート履いて首や耳や指に宝石ジャラジャラつけとるオカマの奴じゃ」
「それは……迂闊に返事をしたら大火傷する内容ですね」
名前を聞かれたところで名前など知らん。
そういえば、赤髪は去り際にメモ紙を渡してきたの。結局中は見ていないが。
ふと思い出し渡されて引き出しにしまったままにしていたメモを見せる
「そやつが以前わしを老人ホームにいれようと企んでおった奴じゃ」
「……間違いなく最高司祭様の筆跡ですね」
「えっマジで!?」あー坊もメモを覗き込む。
「おまいさんはその赤髪にわしの様子を見てこいと言われたんじゃろ?」
「……ノーコメントです」
返事の代わりに苦笑いを返してきた。思い切り目を逸らされる
「わしは老人ホームには入らんからの」
「ロウジンホーム?」
あー坊が「なんだそれは」と不思議そうに聞いてくる
「介護という名目で老人を閉じ込める監獄じゃ」
「なんだ、それ。」
わしの説明に顔をしかめる。
「老人しか入れないのか?」
「そうじゃ!」
「なんだ、それなら大丈夫じゃん。またばあちゃんの早合点だろそれ」というアトルのつぶやきは、耳には入らない。
「最高司祭様とあなたのおじい様はお友達だったようですから、ご心配なのでしょう」
「余計なおせわじゃ。それにそんな話聞いたこともないの」
あの赤髪のオカマと寡黙なじいさまがお友達?まさかそんなことあるもんかい。
「赤髪にわしは一人で大丈夫だと伝えといてくれ」
「そうしたいのはやまやまですが」とハンサムは言いにくそうに言った。
「ついさっき死にかけてるのを目撃してしまったので……」




