五体満足
目を覚ますと、一番にあー坊の顔が飛び込んできた。
「ばあちゃん!」
その顔は不安な色に満ちていて、今にも泣きそうである。
「あー坊……」
小さな頭を撫でてやる。そんな情けない顔をして一体どうしたんじゃ。
「ばあちゃん!大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
痛いところ?そんなところはないが体がだるいのだ。
目は覚めたが体を起こしたくない気分なのである。できればこのままずっと眠っていたい。
こんなに体がだるいのは久しぶりじゃ。
それに、いつの間にわしはベッドで寝たんじゃろか。
重たい頭で考える。
「……っっあー坊!」
倒れる直前のことを思い出し飛び起きる
「怪我はないか?足はついとるか!?」
幼い体をさわり手も足もちゃんとついていることを確認する。
あー坊は「こっ……石頭がっっ!」と言いながら鼻を押さえて苦悶していた。
「まさか、鼻を!?」
せっかくの形のいい鼻だったのに「喰われてしまったのか……」声が震える。
真っ青になりながら、恐る恐るあー坊の顔に触れる
「違うっ!たった今ばあちゃんがぶつかって来たんだろっ」
真、あー坊の鼻はちゃんとついていた。若干赤くはなっていたが。
よく考えてみれば起きて一番に見たあー坊の顔は特に変わりなかったの。
「俺より、自分の事心配しろよ」
そういってあー坊がため息をついた。
「ばあちゃん死にかけてたんだぞ」
そんなん大した事ではない。
わしはもうとっくに棺桶に片足入れとるわ。これが両足になったところで困りはせんよ
小さなアトルが五体満足でいてくれた事にホッとしながらクラクラする体をそっと横にする
「あれからどうなったんじゃ?」
オオカミの妖怪が次から次へと現れて部屋の隅に追い詰められたところまでは覚えているのだが。
あの危機をどう切り抜けたんじゃ?
もうもんすたは見当たらないようじゃが……
まさか、あー坊が全部やっつけたのかの?
「俺じゃねーよ」
あー坊は部屋にある長椅子を指さした。
そこに誰かが横たわっていた。
ひじ掛けに頭を乗せ、長い脚が前に投げ出してある。
「なっ」
その黒い姿を見てギクリと肩を震わせる。
「コイツが助けてくれたんだ」
そこにいたのは、クマリンでわしの鞄を奪っていった男だった




