おんぶ
「あー坊、先に行っていいぞ」
適当な岩を見つけたキクは、道の途中にもかかわらずドッシリと腰をおちつけた。
「仕方ない」と言っていたキクだったが、やはり歩き旅は辛いようだ。
無理もない。ずっと床に臥せていたのだ。体がついてくるはずがない。
半日がんばっただけでも大したものだ。
「大丈夫じゃ。すぐ追い付く」
置いていけるかよ馬鹿。
俺もキクの横に座りキクの息が整うのを待つ。
隊商の列が次から次へと目の前を通り過ぎていく。
キクの体力を見ながら休み休み行くしかないな。
なんとかこの隊商にはついていきたい
隊商の最後尾が通り過ぎたがキクは休んだままだ。
……まあ、もう少しくらいなら大丈夫か
そう思っていたがキクは下を向いたままいつまでたっても動き出す気配がない。
あんまり休みすぎると追い付けなくなる。頃合いをみて「そろそろ行くぞ」と声をかけて立ち上がった。
キクも俺の催促にゆっくりと立ち上がる。そのままその体がフラリとよろめいたものだから慌てて支える
「おいおい。しっかりしろよ」と言うつもりが支えた手に感じる熱がシャレにならないほど高かった
「おまっ!熱があるじゃないか」
「大したことないぞ?」
大した事ないわけない。これは相当高いぞ
「体動かしてるから少し体温が高くなってるだけじゃ」
そう言うキクの目が完全に熱に侵された目になってる
「ほら、乗れよ」
危しい足取りのキクの前にまわりこみ、背中を晒してしゃがむ
「いやいや、大丈夫じゃ」「本当大したことないんじゃぞ」等いろいろ言って乗るのを渋られる。
「いいから! 乗れって!」
俺が強い口調で言うと「ええんか?」とおずおずといった様子で乗ってくれた。
立ち上がって歩き出してみる。フェナントレンでキクの重さは把握しているつもりだったのだが、その想像以上の軽さに驚く。
薬の離脱症状で食べれなかったせいだ。
これでもかなり回復したと思っていたのに。
これは旅が出来る体じゃない。筋力以前にそもそも肉がついてない。
この体に無理をさせたらそりゃあ発熱する
チクショウ! 馬車の旅だったはずなのに。
悔しくて唇をかむ。
キクは肩にぐったりと頭をあずけてきた。すぐに背中に熱がつたわってくる。
首筋にかかる息が荒く熱い。
こんなに熱があったら立ってるのも辛かったはずだ。ずっと我慢してたのか。
動けなくなるまで黙ってるんじゃねえ
何がすぐ追い付くだ、デタラメ言いやがって。本当に置いていかれたらどうするつもりだったんだ
キクは自分の命に頓着がない。
俺の時は大騒ぎするくせに。
以前そんな話をしたことがある「自分だって大切にしろよ」と。
そしたら「今更踏ん張って生き延びたところで88が89になる程度の話じゃ。大して変わりはせんよ」と笑っていた。一体どこまでが本気のか。
俺はキクに死んで欲しくないよ。
出来るだけ長く傍にいたい。
キクをおんぶして歩く。
たぶん今意識はない。声をかけて確認したいがそれで目を覚まさせたくない。
キクにはなるべく休んでもらいたいのだ。
キクをおぶっている分歩みは遅くなる。明るいうちに追いつくのは無理だろう。
だが足跡をたどれば追うことは出来る。今日のキャンプ地までなんとか歩き切る。
馬車や人の足の後でデコボコになった道をザクザクと進む。
揺られるがままだった体が途中で何やらビクンと跳ね、それからは揺れに逆らうような動きにかわる。
目を覚ましたか?
下ろせとか言ってくるなよ。絶対下ろす気はないぞ。
そんなことを思いながら歩いていると、キクの様子がおかしくなった。
息を詰まらせている。
大丈夫か?何処か苦しいのか?
背中に神経を集中させると「すまんのおすまんのお」と何度も呟く声が聞こえてきた。
涙が背中にしみこんでくる。
馬鹿、泣くな。
泣き虫キク。
お前のためなら、これくらいなんでもない。
なんでもないんだ
こうして人をおぶって歩いていて思い出されるのは、俺の背中の上で息を引き取ったニフェのことだった。
死の恐怖に怯えて泣く女の子を前に、何もしてやれなかった
おれは唇を震わせながら、道の先を見据えた。
すみません。続きが未完成のまま投稿されてました(´;ω;`)
今気が付いて慌てて消しました。
恥ずかしすぎる(///;)




