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おばあちゃんが異世界に飛ばされたようです  作者: いそきのりん
大切なもの(アトル中心)
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許嫁解消案件

「ああん。酔っちゃった」


 俺達の目の前で全く酔ったようには見えない女がクロにしなだれかかっている。


 なんだ?コイツ


 夕食時にいきなりあらわれて、随分馴れ馴れしく絡んでくるなあと思っていたらこの有様だ。

 どうやらクロの奴、モンスターを倒しに抜けたあの短時間の間にまた女に言い寄られていたようだ。


「すみませんが、許嫁がいるので……」


 もはや完全にクロのお決まり文句だ。


 最初は釈然としなかったが、慣れとは恐ろしいもので今は特に気にならなくなった。

 効果抜群。

 この一言で女は遠慮して去っていく。

 確かにこんなに便利な有効札、使わない手はない


 だが、やはり例外というものは存在するわけで……


「やだもー、何言ってるのよー」言われた女はキャハと笑いだす。

「あなたは酔った人の看病してるだけだし。それにいちいち目くじらたててるような女は駄目よ」


 コイツ、キクが許嫁だと知っていてワザと聞こえるように言ってやがる

 もし本当にキクが許嫁なら軽く修羅場だ。


 女こええ。


 これは関わらないのが吉だ。


「ん?なんか言ったかの?」

 最初から気の無いキクは、女からの視線を軽くながす。


 むしろ焦りだしたのはクロの方だった。

 今までまったくキクの方には実害がなかったので使いたい放題の切り札だったが、キクに火の粉が飛ぶなら話は別だ。これでキクの機嫌を損ねて「許嫁のフリ止める」と言われたら終わりだ。


「酔ったのでしたらテントに戻ってはいかがですか」

 女の視線からキクを隠しながら、さっさと帰る様にうながすクロ。


「一人じゃ歩けないのー。連れて行って」

 猫なで声をあげながらクロにしがみ付く。


 たった今、キクに向けてきた射殺すような視線が、目をウルウルさせながらクロへお願いモードへと変わった。


 女こええ。


 クロは自分で行く気はないらしくあたりを見渡してかわりに女を送ってくれる人を探す。

 この女、それなりに容姿は良いため「あ、じゃあ俺が」と近づいてくる下心満載の男は何人かいたが、女の一睨みで退却して行く。


 女の気迫が半端なかった。

 これは何が何でもモノにしてやろうと企んでる顔だ。


 クロがくっついてくる女を押しのけようととすると「やんっ」「エッチ」と過剰反応する。


 エッチも何も肩触っただけだろうが。


 その度に手を引っ込めてタジタジになっているクロを見てため息を吐く。

 女を前にするとどうしてこんなにヘタレなのか

 クロが強く出ないおかげで相手のしたい放題だ。


「他所でやってくれんか」

 いちゃつく二人を見て、キクが声をあげた。


 いや、気持ちはわかる。

 クロはそんなつもりは無いのはわかるが傍から見たら男女がいちゃついているようにしか見えない。


 鬱陶しい。本当鬱陶しい。


「いやーん。怖ぁーい」

 キクが切れてコワイとクロに抱き着く


 はあ?

 まるでキクが鬼嫁であるかのような反応にイラつく


「どこのテントですか?」


 観念したのか「送っていきます」と言い残したクロは女と共に夜の闇に消えて行った。



 そのまま夕食の片づけも終わりテントに入り寝床の準備になってもまだ戻って来ない。

「戻って来ないな」

 送ったらさっさと戻ってくると思っていたのに。


「大方、引き止められておるんじゃろう」


「見せたいものがある」だの「送ってもらったお礼を」だの言って部屋に連れ込まれるものらしい。

 断り切れずに「ちょっとだけ」のつもりが、大惨事に発展する良い事例なのだとか


「あー坊も気をつけえ」


 気をつけろと言われてもな。

 そもそも自分に言い寄ってくる女なんていないし


 だがもし現れたら感激して邪険に扱うなんてことはできない気はする。



 噂をすれば当の本人が戻ってきた。

 見るからにぐったりして寝床に腰をおろす。


 今まで何してたとかはあえて聞かずにおく


「口紅がついてんぞ」


 俺が指摘すると「うわっどこ」と言いながら口やら頬やらを触る。


 へーそんなところに口紅ついた覚えがあるんだ


 耳の下だと教えてやると「なんでここに……」といいながら慌てて拭っていた。


「わざとじゃろうな」

 許嫁への当てつけなのだろうとのことだった。

「匂いもつけられとるぞ」

 確かにクロが帰ってきてからどぎつい香水の匂いがテント内に充満している。


 なるほど行為があろうがなかろうが、アウト判定くらうということは理解した。

 キクでなかったら許嫁解消案件だ。


 当のキクはというと「まさかわしを女として見てくれるとは」となぜか嬉しそうであった。


「どうせならプロぱいの方にしとけよ」

「どうしてそこで、プロパさんの名前が出てくるんですか」

 クロが額に手をあてながらうなる。

「今の奴、性格悪そうじゃん」


「プロぱい?」とキクが首をかしげてくるのでラクタムの町であった女の人だと説明すると「おお、あのボインのおねいさんか」と手をならした。

 そしてニッコリと微笑む。


 あ、なんか嫌な予感。


「あー坊はあのおねいさんにほの字じゃからの」

「だから違うって!!!」


 やはりその話か。

 一体いつまでその勘違いをひきずる気だ。


「ああ、そうだったんですね」


 悪乗りしてきたクロが「僕はおばあちゃん一筋ですからね」と言ってキクを自分のもとに引き寄せる。


「俺だって!」


 ここは、ひとつクロに便乗してキク一筋宣言をしてしまおう

 この流れならいける。


「キクひと…ひとす……」


 無理!


 目をパチクリさせながら見つめられて、顔が燃え上がる。

 とっさに視線を逸らしたらその先に、ニンマリ顔のクロ


 どさくさに紛れてキクを腕の中に納めていやがった。


「とにかく! 離れろ!」


「あー、ホッとしますねえ」

 無理やり引き離そうとすると、クロはこれ見よがしにギュウっと抱きしめる。


 調子にのりやがって!


 俺がイライラを燃やしていると

「おまいさんは、いつまでそうやってフラフラしておる気なんじゃ。さっさと身を固めんか」

 とポコンとキクに頭をたたかれていた。



 ◆



 そんな疑似浮気事件があった次の日の朝、クロは仕事にでかけていった。

 いつも思うが、一体どうやって連絡が来ているのだろうか

 家にいる時ならわからなくはないが、今は移動中なのに。


 こうしてクロは一行から抜けていき、俺たちの旅の状況は一変した。

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