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おばあちゃんが異世界に飛ばされたようです  作者: いそきのりん
大切なもの(アトル中心)
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すりおろしリンゴ

ベッドに体を沈めたキクは、ただ虚空を見つめ続けていた。


それを見つめる俺も虚無だった。

手も足も頭もジンジンして上手く働いてはくれないのだ。


この状態のキクが、ずっともつはずはない

「終わり」が近づいていること、それらを考えることが怖かった。


もう、ずっと眠れていない。



キクの唇がかすかに動いた

「ん?なんだ?」

何かを訴えようとする空気を察してキクの顔を覗き込む。

シワシワになった唇が弱弱しく動くので、耳を近づけてなんとか聞き取る。

「リンゴが食べたいのか?」


吐き気の続くキクのために、何か食べれるものはないかといろいろ買っては来たものの、キクは全く見向きもしなかった。

そんなキクがリンゴを食べたいと言う


急いで皮をむいて食べやすいよう一口サイズに切ってやる。

それを口元まで運ぶと、拒否されることなく口が開かれた。

のろりのろりと口の中で転がす。


前回りんごをむいたときは、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかった。

たった数日前まではニコニコ顔で頬張っていたのに。俺はそんなキクの姿を見てはドキドキしていたが今はそんな余裕はなかった。


頼むから食べてくれと祈るような気持ちで見守る。


一向に飲み込もうとしないキクを見て、噛む力がないのだと気が付き、試しにすりおろしてあげてみたらモグモグした後飲み込んだ。

その後も吐き戻すこともない。


もう一口、口へと運ぶ。

スプーンが咥えられてかちりと歯に当たる感触が手に響く。

目頭が熱くなった。

スプーンを持つ手が震える。リンゴをすくいもう一口。


「食べてくれる」ということがこんなに嬉しいとは思わなかった。

「食べられない」イコール「死」に直結しているということに今更ながら思い知る


キクは今、その命をなんとか繋ぎ止めようとしてくれている


ぼやける視界のなか、微かに見えた光に胸を震わせた。







それからのキクは、水が飲めるようになり食べれるものも増えてきて

キクの体調は徐々に上がり傾向へと変化していった。


感情の起伏もなくなって、青白かった顔色もじょじょに赤みを取り戻していった。


「なんとか峠はこえたようですね」

体を起こせるようになったキクの姿を見てクロもホッとした表情を浮かべていた。


「アトルがいてくれて助かりました」

一時はどうなることかと思ったと息を吐きながらクロが言う。


「俺、何にもできなかった」

苦しむキクを前に見ていることしかできなかった。


「アトルがいなかったら、とっくに死んでました」


一体何を見てそんなことを言うのだろう。全く役立たずだったことは自分が一番よくわかっている。


「俺より、クロのおかげだ」

クロがいなかったら、どうしていいかわからなかった。

日に日に壊れていくキクを前に大した動揺もなく淡々と対処するクロの存在は心強かった。


「僕はちょっと知識があっただけですから。

 知識だけではどうにもならないことってあるんです」


やはりよくわからないでいる俺を見て笑う。

「おばあちゃん、君の前では一生懸命強がっていましたからね」


クロの前では「もう嫌じゃ」「死にたい」「楽になりたい」と弱音と泣き言ばかり吐いていてまいったそうだ。

そんなの一言も聞いたことがない俺は目を丸くする


「きっとアトルいなかったらさっさと諦めてあの世に逝ってますよ」








日常生活に問題が無くなってきた頃、キクが家に帰りたいといいだした。


キクの体ではまだ歩き旅は無理だ。


「来た時と同じ方法は取れないのか?」

また一瞬で移動できないだろうかと期待したが「あれはもう忘れて下さい」とクロは目を逸らしながら苦笑いをもらした。


「なに?叱られでもしたのか?」

軽くからかってみると

「厳重注意をうけました」

とクロもため息を吐きながら乗ってきた。


「神経質そうだったもんなあ、あのメガネ」


クロはサッと表情を変え声を低くした。

「消されますよ?」


「仕事熱心そうだったもんな」

消されたくはないので即座に聞こえのいい表現に言い直してみたが「そう言うことではなく」とクロが眉間をおさえる。


この一言であの移動のトリックは、フラン繋がりで間違いないと確信する。

俺の目が光るのを見てクロがはっとした顔をした。


最後の一言がなければ、まだごまかしがきいたのにな。

まあ、もともとクロは俺にバレるのは覚悟の上で、懸念しているのは俺が消されることのようだけど


大丈夫。誰にも言わねえよ



とりあえず馬車は必須。そのうえでの護衛の問題。

クロがいれば十分なのだが、このクロがいつ呼び出しを食らうかわからないのだ。

俺一人だけでは不安が残る。


なんとか、クロに帰るまでの間ついててもらえないか頼んだが

もうすでに、キクの薬を抜くために無理を言っていたらしい。

そういえば、ここにきて一か月以上たつがクロは一度も仕事に出かけなかった。これはたまたまではなかったようだ。


「これ以上は厳しいです」と申し訳なさそうに言われたが、あの苦しい時期をそばにいてくれただけで十分だった。これ以上わがままは言えない。


かわりの護衛を雇いたいが、距離があると嫌がられるし金もかかる

街から街への定期便をしらべて乗り継いで行くか。

ここら辺は頻繁に通っているが田舎に行くほど本数が少なくなる。週一月一というのも珍しくない。

そこからは、馬車を手配して、道案内兼護衛を雇って……

どう頑張っても長旅になりそうだ。


帰省の計画で頭を悩ませていると、クロが隊商を手配してきた。

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