お楽しみ中
ここにきて二日目も過ぎた。
まだクロは戻って来ない。
キクは今日もボンヤリしたままだ。
もしかして頭をやられてしまって一生このままなんだろうか?
いろいろ伝えたいことがあるのに。
手を引けばちゃんと歩いてついてくるので、一階のBARで一緒に食事をとる。
キクの普段の食べ方はテーブルマナーを全く無視しているものの整っていてとても美しいのだが、今はボンヤリした状態のせいか、よくこぼすし口の回りも手も毎度汚れる。
今も見ると口の端にパンのかけらがついている。
「おい、ついてるぞ」
ココと場所を教えて見るが、ポヤンと笑い返してくるだけでわかってもらえない。
仕方なく手を伸ばすと、拒否することも無くおとなしく取ってもらえるのを待っている。
かわいい。
このままキスしても大丈夫なんじゃないのか?
全くわかってないし。
口元に手をのばしたまま、そんな事を考えていると、赤い瞳がぱちくりしながらこちらを眺めていた。
「……っり、リンゴ!食べるか?」
あわててパンの欠片を落とした俺は見透かされるのを恐れて、なんとか誤魔化そうとリンゴを手に取る。
以前キクが教えてくれたように、リンゴの皮をむき一口サイズに切って前にさしだしてみた。
「うわっ」
途端、俺は悲鳴をあげることになった。
キクは受け取ることなく、なんと俺の指ごとかぷついてきたのだ。
慌てて手を引いたが、口の暖かさに背中がゾワゾワとした。
あっちは何ごともなかったようにもぐもぐ食べているが、こちらの心臓は大騒ぎだ。
おかわりを催促されたので、今度の一切れは大きめに切る。
今度は一口では食べられない。
それでもかまわずかぶりついてくる。が一気に口に入らない
意地悪く端を掴んで離さないでいると、キクはくわえたまま困った顔をする。
こ、これは……!
思わずキクとのりんごの引っ張り合いに夢中になる。かじってしまえばいいのに何故かキクはそれをしない。
小さなバトルの後、ついに指がすべってとられてしまった。
リンゴをとることに成功したキクは嬉しそうに頬張る。大きいリンゴに押され頬がボコボコ膨らむ。
そんなキクの姿を見てゴクリと喉を鳴らしていると、ふと視線を感じた。
なんだか嫌な予感がして恐る恐るそちらを見ると向かいの席でコーヒーを飲むクロの姿が。
「ク、ク、ク、クロ!」
突然の出現に大いに動揺して後退しようとするが、椅子の上であるためそのまま後ろにひっくり返った。
「い、い、い、いつからそこに」
はいあがった俺は問う。一体どこらへんから見られていた?
「キスしそうになっていたところくらいから?」
顔から火が出そうになる。
「こ、声かけろよ!」
「お楽しみ中だったようなので」
リンゴ咥えさせて一体何を考えてたんですかねえ。とニンマリとたずねてくる。
「いや、俺は、ただ、り、りんごをあげてただけで」
「大興奮でしたね」
……だめだ完全にバレている
正気でない女の子にエロい仕草をさせて喜んでいる姿をみられた俺は悶絶する。穴があったら入りたい。
「いやあ、初々しいなあ」
頼むからもう何も言わないでくれ!
恥ずかしすぎてテーブルに突っ伏した。
死にたい




