長い夜
長い長い夜が明けた翌朝、キクが目を覚ました。
「キク!目がさめたのか!」
ろくに眠れずボーっとしているうちに、キクはいつの間にかベッドで体を起こしていた。
つい勢いにのってキクの二の腕を掴むと、ビクリと体が震えた。
「あ、わりぃ」
キクの過剰反応に驚きすぐ腕を引っ込める。
様子がおかしい。
これは、昨日と同じだ。
俺の事を認識していない。
体は起きているのに頭は起きていないそんな感じだ。
「……キク?」
ボンヤリしているキクの頭を驚かせないようにそっとなでる。
優しくされて安心したのかホッとしたような表情をうかべて俺の方をむいた。
「わかるか?俺だ。アトルだ」
恐る恐るキクの反応を窺う。
頭を撫でられて気持ちいいのか、淡く笑い返してきた。
耳元まで降りてきたタイミングで俺の手をとり自らの頬に当てウットリと幸せそうな表情を浮かべる。
優しい頬の体温が掌に広がった。
その仕草に胸が高鳴る。
いつものキクならこんなこと絶対しない。
俺の手にすり寄ってくるかわいい行動にドギマギする。
頬に触れたまま親指を伸ばすと簡単に唇にふれる。
そこはしっとりと濡れており、柔らかい感触が親指に伝わる。
この指を少し開いたその口に押し込んでみたらどうなるだろう。
いやいや何考えているんだ自分。
芽生えた悪戯心を抑えていると、口から覗いた舌がチロリと親指に触れてきた。
ボボンと脳みそが爆発した。
これは薬のせいだ。キクの意思じゃない。薬でおかしくなっているんだ。
吹き飛んでいきそうになった自制心をひきとめる。
そのまま唇にしゃぶりつきたくなる衝動と戦いながら、なんとか親指を退けて何気なく耳を触る。
気を紛らわそうと丁度指先に当たっていた耳をいじってみただけで特に深い意味はなかったのだが。
「……ふっ…ん」
突然、キクの反応が甘くなった。
ん?
もう一度キクの耳をいじる
耐えるように目をつぶり、体をビクビクさせている。
うわ、なんだこれ。
俺、耳触ってるだけだし。
やめてあげればいいのだが、顔を真っ赤にして耐えている姿は嗜虐心を煽る。
一旦手を放し自分の耳を触ってみるが、なんの感触もない。ガサゴソ音がするくらいだ。
改めてキクの耳を触る。
一瞬俺の手から逃げようとしていたが、容赦なく触る。
なに?そんなに感じる?
俺の手でキクが息を乱していく姿は、たまらなかった。
別にいやらしいことをしているわけではなく、耳触っているだけだし。
おかげで、調子にのってやりすぎた。
気が付いたら、キクは息も絶え絶えになっていた。
俺は慌てて部屋から飛び出した。
外の水場まできて、水の張った桶に迷わず顔をつける。
これ無理だろ
散々虐めた後にいうのもなんだが、これは自制心が続かない。
誰だよ。あの可愛い生き物は。
涙を浮かべて乱れに乱れるキクの姿を思い出して、再び水に顔をつける。
落ち着け、全部薬のせいだ。
いやもし本当にそうなら、その薬に称賛の言葉を贈りたい。
……って褒めてどうする!
それと、あれだ。
あの毒虫にやられたせい……
そう思うと興奮していた熱が一気に温度を下げた。
離れで見た女を思い出したのだ。
熱が冷めるどころか真っ青になる
ヤバイ。
キクが淫乱になった。




