バレバレ
「バレバレでしたね」
俺のフルネームを叫ぶコデインの声がきこえてきてクロが笑う。
俺達は現れたクロに一瞬にして攫われ岩陰に身を隠していた。
あれは仕方ない。
皆を連れて脱出するにはああするしかなかった。
かといって大々的に名乗るわけにもいかなかった。
はあ、とため息をつく。
これでアトル=バスタチンが生きているとバレてしまった。
皇帝の耳に入ったら、命を狙われるんだろうか。
「コデインなんかすぐしゃべりそうだし」
「……それは大丈夫ですよ。
あそこにいる使用人、領主様なんて特にですが処刑確定ですから」
えっ?
予想外な話に顔をあげる。
「おそらく、皇子暗殺を企てたとして反逆者扱いになります」
「はあ!?逆だろう?」
「……逆だから、殺すんですよ?」
汚名を残さないように。
目を細めるクロを見て愕然とする
『コデインの反逆。屋敷に火を放ち事故に見せかけ皇子を殺そうとするも失敗。共犯者と共に逃走中』
シナリオはこんな感じらしい。
なので反逆者が何を口走っても相手にされず、余計なことを口走る前に舌を切られるとのこと。
嬉しそうに舌を切るクソ野郎の姿が想像できて反吐がでそうになる。
クロは嫌いなクセにロス皇子の行動をよく把握していると思う。
「ただ、そうですね。噂は広がるでしょうね」
人の口には戸は立てられませんからと苦笑された。
「波乱万丈な人生になりそうですね」
「もう十分波乱万丈だ。これ以上はごめんだ」
出来ればキクとあの家で一生平和に平凡に過ごしたい。
腕の中で気を失っているキクの姿をみつめる。
よくキクが言っていた「平穏な日常が一番」か。今ならよくわかる。
パンのにおいで目を覚ますあの朝の尊さが。
やっとキクを取り戻せたのだ。もう二度と手放す気はない。
「プロパさんにバレた時点でフラグが立ってましたけど」
なんだよフラグって。なんとなく言いたいことはわかるけど。
「今回はまさに『賽は投げられた』って感じでしたから」
クロの言葉にゲンナリする。
覚悟はしてたけどやはり避けられるものなら避けたい。
「なんなら、口封じをしてきましょうか」
つまり「皆殺しにして来ましょう」という意味だ。
「馬鹿!やめろ!」
これだからコイツは!キクが見てないと遠慮がない
「わかってますよ」
俺の慌てる姿をみて、大量殺人鬼がクツクツと笑う。
「だから人が放っておかないと言ってるんですけどねえ」
「なんだよ」
クロのつぶやきが聞き取れなくて問い直したら「何でもないです」とはぐらかされた。
……本当になんだよ。




