出口
自分達があんなに苦戦した魔法石付き人間とクロの戦いに皆心を奪われていた。
動きが速すぎて、光を弾く剣の軌道が光の線になって見えるだけだが、クロが二人を翻弄しているのがわかる。
「今のうちに脱出するぞ」
次元の違う戦いに見入っていた奴等は、俺の声で我に返り動き出した。
「動ける奴はなるべくケガ人を助けてやってくれ」
あんなに大所帯だったのに魔法石付き人間の襲撃でほとんど殺されてしまった。
なんとか生き残った者達を連れて出口へと向かう。
幸いなことに、魔法石付き人間はクロの相手で精一杯のようで邪魔はしてこなかった。
扉の先、先程と同じような通路をケガ人の負担にならないようにゆっくり進む。
もはや奴隷側も領主側も関係なく「生存者」として肩を貸し合っていた。
俺も自分の体より大きいキクを腕に抱いているためかなりきつかった。途中で変わろうかと言われたが、意地でもキクは自分で運びたかった。
死んだと思っていた時の事や皇子に捕まっていた時の事を思うと、こんなのへでもない。
途中、使用人たちが「あんまりだ」とすすり泣きだした。
領主側は「離れ」で行われたことを知っていたはずだ。
犠牲になる奴隷を見ても他人事と思っていたのだろうか。
まさか自分達までもが皇子の嗜虐趣味の餌食になるとは考えてもみなかったのだろう。
通路は一本道で途中から登り階段へと変わった。
長い長い階段を登り、ついに出口と思われる扉が見えた
「出口だ!」
葬列のような空気が一変、歓喜の声があがった。
俺はそこで立ち止まり、コデインが扉へ飛びついた。
他の皆はケガ人を背負っている中、コイツだけは手ぶらだった
「やめろ!死ぬぞ!」
俺が止めるとビクッとして慌てて取っ手から手を離した。
目を白黒させながら領主が振り返り、他の奴等も希望をくじかれた顔で俺を見てくる。
「……あのクソ王子が何もしてないと思うか?」
言うと全員の顔がさっと青ざめた。
「何か仕掛けてあるだろうな」
俺の意見に大男が同意してくる。
この男は魔法石付き人間の攻撃を受けて利き腕を損傷してはいたがなんとか生き残っていたのだ。
「離れ」にはボウガンが仕掛けられていた。出口に仕掛けがないわけがない。
皆で手分けして探した結果、絨毯の下にある魔法陣を発見する。
それは扉を中心に描かれている大きな魔法陣だった
「誰か、魔法使いはいないか?」
「魔法使いだが魔法石がないとどうしようもない」
俺が呼びかけると奴隷の中から魔法使いが名乗り出た。
「この魔法陣の解除は?」
「魔法陣の知識はない」
どうやら魔法を使うのと、魔法陣は全く知識が異なるらしい。
さてどうする?
魔法陣の位置的に扉を開けると発動すると思われる。
何が起こるかはわからないが、まず間違いなく開けた者は死ぬように出来ているだろう。
「引き返して他の出口を探すか?」
だが、引き返した先ではクロが戦っている。
「他の出口も似たようなものじゃないか?」
たしかに。
あのクソ野郎はそんなに甘くはないか。
一か八かここを開けるしかない。
祝200話★いつも読んでくださる皆さんありがとうございます^^




