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おばあちゃんが異世界に飛ばされたようです  作者: いそきのりん
大切なもの(アトル中心)
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殺戮人形

「う、う、うわあああああ!!!!」


 怪我人に肩を貸していた男が悲鳴をあげた。

 一瞬、斬られた事にも気が付かず突然噴き出した自分の血に驚いている感じだった。


 傷口を押さえうずくまる男に、トドメを刺さんと人影が動く。


 させるかよ!


 剣を抜き止めに走る。

 もっと近くにいた奴隷二人が俺と同じように男を庇いに入った。

 追い払うように攻撃を仕掛けていたが、その全てがヒラリヒラリと風に舞う布のように避けられてしま

 っていた。

 俺も追撃したが軽やかに跳躍し距離をとられてしまう。


 コイツ強いぞ!


 突然、現れた強敵に息を飲む。

 前方の襲撃者を睨んでいると別の所で人が倒れた。


「!?」


 前の敵ばかりを警戒し、全くノーマークの場所だったため、皆に衝撃が走った。


 倒れた使用人の傍に佇むもう一つの人影。



 まさかの二人目!


「コイツ等一体どこから湧いた?」


 近づくまで全く気配に気が付かなかった。


「他にはいないか?」

 実は三人目がいましたとかはないよな?


 二人から視線を外さないように後退しながら近くの奴等で身を寄せ合う。

 ここら辺は本能なのだろう。何も言わなくても皆自然にそうしていた。


「見た所、二人しかいないな」

 視線を外す余裕の無い俺の代わりに他の奴が報告してくれる。


 襲撃者の二人は、皇子の従者と同じ装束を着ていた。

 そして同じように無表情だった。


 なんなんだ。こいつらは。


 とにかく不気味だ。

 そして妙な違和感に気持ちが悪くなる。


魔法石付き人間(ハロペリドール)だ」


 魔法石付き人間(ハロペリドール)


「なんだそれ?」

 俺が問うと皇子側の人間が答えてくれる


「皇子御用達の殺戮人形だよ。背中に魔法石が埋め込まれていて命令を忠実に遂行するようにできている」


 魔法石ってそんなことまでできるのか。

 ということは、こいつらは皇子の差し金ってことですか。


 二人とも直立姿勢でユラリとユラリと海に漂うように体を揺らしている。


 何度目かの揺らめきの後、左の金髪の奴がゆらりと動いた。


「来るぞ!」


 その言葉に全員、臨戦態勢に入る。

 金髪の動きを追っているうちに、右の茶髪の姿を見失う。


「……っああああ!!」

 想像以上に入り込んだ所で悲鳴があがり、背筋が凍る。思わず視線がそちらに向いてしまった所をついて金髪も踏み込んでくる。

 俺とは別の集団の一人が心臓を一突きされ、地面に倒れた。


 その集団はクモの子を散らすようにてんでバラバラに逃げだした。

 そのまま次々と倒されていく。

 助けに走りたいが俺の集団が瓦解するだろう。


 俺の出来る事は今のうちに他の集団とも合流し、守りを固めることだ。


 この二人、スピードも連携もハンパない。


 片方を目で追うのがやっとの状態だ。

 訓練されているはずの兵士も手も足も出ないままあっという間に地に伏せた。


 恐怖よりなによりただならぬ違和感があるのだ。

 人間離れしたクロの動きを見てもこの違和感は生まれてこない。


 単独の奴等を片付け終わったのか、またユラリユラリと静の動きになった魔法石付き人間(ハロペリドール)を見る。


 そうか……わかった。この違和感の正体。


「こいつら、殺気がないんだ」


 前方に立つ二人が襲って来る気があるようには感じられないのだ。

 ボーッと突っ立っているようにしか見えない。立っている時はもちろん攻撃を繰り出している時ですら意思を感じられない。


 普段体が勝手に周囲の敵意や殺気を感じて警戒しているのだろう。

 それが魔法石付き人間(ハロペリドール)相手だと全く働かない


 おかげで警戒心との兼ね合いがおかしくなる。気持ち悪さの正体はこれだ。


「当たり前だ!意識を破壊されてるんだからな。人形と一緒だ」


 それで、あんなに表情がないのか。

 俺の拷問をしていた奴とこの二人と別人なのはわかるのに顔が頭に入って来ない。はっきりと違いのわかる髪の色で区別する。


 ……操り人形か。

 そう思うと憐れに見えてくる。


「……魔法石とったら、元にもどるとか?」

 ちょっと間の抜けた質問をしてみる。


「意識を支配されてるならそうだけどな、破壊されてるって言っただろ。もう死んでるのと同じだ」

「そもそも、あれから魔法石が取れる気がしないがな」


 そりゃそうだ。


「ボウズは歳のわりに戦い慣れしてるな」

 合流したことで大男と同じ集団の中に入った。


 結局適当に集まった結果二組の集団に分かれていた。

 大まかに領主側と奴隷側と。まあ自然だな。


 奴隷側には数人領主側の人間が混ざっているようだが。

 先頭を歩いてた兵士とか。


「俺、一応Ⅲ群」

「ほう、若いのに大したもんだ。ちなみに俺はⅡ群だ」


 それをきいて納得する。なるほど「統率力」ね。

 確かにこの大男にはそれがある



 お互いの実力を聞いたところで、前方の敵を見据える


 殺気なしの無表情、動きで判断しようにも揺れている動きのおかげで初動が全く読めない。

 不気味すぎる


 今度は二人同時に動いた。左右に分かれて襲って来る


「そっちは金髪を!こっちは茶色を相手する」


 それぞれの集団へ大男の指示が飛ぶ。

 一人に集中している間にうしろからグサリという可能性はあるが、割り切るしかない。手分けをしないと二人同時に相手にするのは無理だ。


 あまりに速すぎて動きについていけていない。

 皆それぞれ手にした武器で応戦しているが、全く話にならない。

 赤子の首をひねるようにいとも簡単に倒されていく。


 茶色は前方の奴隷を切り裂き、振り下ろされた剣を体をひねってかわしつつ、その回転を利用してカウンターをくらわせその結果を見ることも無くこちらへ踏み込んでくる。


 とっさに大男が俺の前に出て追い払おうと斧を振ったがかわされた上にその太い腕から血がふきだし、斬った体制のままの茶色が俺目掛けて突っ込んできた。



 はええ!!!


 息をする暇もなかった。

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