隠し通路
書斎では隠し通路の捜索がすでにはじまっていた。
奴隷、使用人、兵士等いつの間にやらかなりの大所帯だ。
「ほらみろ、秘密の抜け道なんてないじゃないか!」
俺の姿を見てコデインが吠えた。
こんなに大勢で探しても、見つからないらしい。
俺は書斎の中央に置いてある大きな机に真っすぐに向かう。
昔父親に教えてもらった通りに一番下の深い引き出しを抜きかわりに一番上の浅い引き出しを差し込む。
コレがスイッチになる。
引き出しを奥に押し込んむと、机の足元、床スレスレの場所が穴を開けた。
普段は机の脚と床は隙間なくくっついている。たぶん知っていないとこの小さな変化に気が付けない。
皆が興味深々に集まってきた。
できた穴に手を差し込むと床にも穴が開いていることに気が付く。
そこを取っ掛かりにして入り口を開けようとするが、何せ今俺のツメは馬鹿になっている。
四苦八苦していると近くに立っていた男が代わってくれた。服装からしてここの使用人だ。
皆が見守る中、無事階段が現れた。
「おお-」
「すげえ」
皆の感心の声があがる。
それに交じって風をきる音が聞こえた気がした。
「ぐっ」
低い悲鳴が上がり階段からそちらに視線をむける。
今入り口を開けた男の首に矢が刺さっていた。
驚く俺たちの前で男の体は傾き、暗い階段を転がり落ちて行った。
一体何が起きた?
「見ろ!あそこにボウガンが仕掛けられてる!」
ボウガンの姿を確認してゾッとする。それは角度的にこの入り口を開けた者を狙っていた。
男が変わってくれてなかったら、俺が死んでいたのだ。
「おい!どういうことだ」
奴隷たちがこの屋敷の主に詰め寄る。
「わ、私は知らない!ここに通路があることも知らなかった!」
俺が住んでいた時、こんな仕掛けは当然なかった。
「あんのクソ皇子!!」
もちろんロス皇子とは限らないが、こういう陰湿な嫌がらせは全部皇子のせいな気がした。
皇子のアイツなら、この秘密の通路を知っていてもおかしくない。
息を飲んだ。この先、罠が仕掛けられている可能性が高い
「明かりを!」
「お、おい!小僧」
「行くしかないだろ?」
ここで立ち往生してても仕方ない。後戻りはもうできないのだ。
ランタンを受け取った俺は恐る恐る階段へと足を踏み出した。
階段を下り終わると長い通路が広がっていた。この先は俺も行った事はない。
手元の明かりを頼りに前へと進む。
降りるのを躊躇していた奴等もちゃんとついてきているのを確認する。
途中、後方でドンッと爆発音が聞こえ、振り返ると三人が犠牲になっていた。
どうやら壁に備え付けられた燭台に火をつけようとしたらしい。
結果、火をつけようとした奴は死に、近くにいた二人も重症を負った。
それを見て青くなる。俺も一瞬つけようかと思ったのだ。
なんとなく悪い予感がしてやめておいたが。
これもおそらく後から仕掛けられたものだろう。人の心理をよく把握してやがる。
先に進むと道は突き当り、右と左に分かれていた。
「どっちに行けばいい?」
そう聞かれても俺も知らない。俺が教えてもらったのは入り口だけだ。
その先は「きっとお前ならわかる」と言われた。
「何かヒントはないか?」
ランタンを近づけいろいろ探ってみる。
壁は石造りになっており、単調な模様が直線的にずっと続いている。
その単調な模様の中、正面の壁に一つだけ違う模様が混ざっている事に気が付いた。




