書斎へ
沈黙が落ちた。
まあ、そうなるだろうよ。
領主が知らないことをなんで俺が知っているんだと思うだろう。
俺は昔、父親から脱出のための隠し通路を教えられていた。
本当は言いたくなかったが仕方ない。
「何を馬鹿なことを。大体なんでお前が知っているんだ」
領主のごもっともな意見に、俺はゴクリと息を飲む。
さすがに父親に教えてもらったとは言えない。
答えられず口を閉ざす
「わかった。信じよう」
沈黙を保つ俺に、大男は空気を察してくれた。
「こんなガキの世迷言をか?」
「それなら領主様はロープつたって下ればいい。皇子に落されない自信があるなら」
まさか領主は落とさないだろうと普通は思うが、現に今俺たちと一緒に閉じ込められている。
方針はきまった。
「よし、全員書斎に急げ!」
大男の掛け声と共に全員書斎に向かって走り出した
「クロ!」
俺たちも向かおうといまだ治癒魔法を継続しているクロに声をかける。
「僕たちはいいです。先に行ってください」
いや、でも……
「今、無理です」
クロの隣に立ちキクの容態をみる。
顔色は回復しているが、まだ呼吸がヒューヒュー言っている。
俺はキクを助けに来たのだ。置いて行くわけには行かない。
「君が行かないと、みんな死にますよ」
自分の横に腰を下ろした俺にクロが困ったように声をかけてきた。
だけど、俺もキクが一番なんだ。
「君まで僕のマネをする必要はないんです」
アトルは、助けたいんでしょう?他の人たちも。そう聞かれ唇をかむ
「大丈夫。おばあちゃんだけなら連れて脱出できるので」
クロはもうかなりの時間治癒魔法使っているが、魔力はもつのか?
もし魔力が尽きたら大男の言う通りキクは死ぬことになるのか?
「キクは……」
助かるのか?
不安が口からでそうになり、なんとかのみ込み立ち上がる。
「……キクを頼む」
「仰せのままに」
クロの茶化した言い方に赤くなりながら、書斎へと向かった。




