脱出
ひととおり目途がついたところで早く脱出をしようと皆の気がはやりはじめる
「どうやって脱出する?」
「正門は駄目だ! あの皇子がいる」
「なら、裏口は?」
下手に脱出したら捕まって元の木阿弥だ。
「窓からはどうだ」
一階は上の階を支えるため石造りになっており、採光口くらいしか窓がない。
人が通れる窓は二階からだ。そこから飛び降りるのは高さ的に無理だ。
ロープでつたって降りていたらそれこそすぐに捕まるだろう。
奴隷の間で脱出の相談をしていると、廊下が騒がしくなっていた。外をうかがうため廊下をのぞく。
「正面扉が開かなくなっているぞ!」
「そんな馬鹿な」
「裏口にまわれっ」
「駄目だ!そっちももう火の手が回っている!」
「どういう事だ!?出火場所は消火したのになんでそんなところが燃えているんだ」
クロが言っていた通りの事がおこっていた。
「あれコデインじゃないか?」
皇子に見捨てられ右往左往する憐れな使用人たちを見ているとそんな声が上がった。
「コデインって?」
「ここの領主だ」
マジか。領主まで閉じ込められているのか。
こちらの視線にあちら側も気が付いたようだ。
「奴隷たちが逃げた」
拘束から解放されている俺たちをみて慌てふためいていた。
まったく。今、お互いそれどころじゃないだろうに……。
と思っていると領主に向かって斧を持った奴隷が切りかかった。
「馬鹿野郎!今はそれどころじゃないだろ!!」
焦った俺は剣を抜き止めに入る。
斧の一撃を受け止めるのは辛かった。ツメがないと全然手に力が入らない。それでもなんとか止めるのには成功し、俺のうしろでコデインが腰をぬかしていた。
「何故止める!?お前も奴隷だろ!こいつら俺たちを虫けらのように扱いやがって!」
この奴隷の体制をつくったのはこの領主だ。
見ると他の奴隷達も憎悪の瞳でコデインを見ていた。
「だから、今それどころじゃないって言っているだろ!」
「ここでお前がこいつを殺してスッキリ終了になると思うか!?」
混乱していた兵士や使用人たちがこの騒ぎで領主の元に集まって来た。
「殺し合いが始まるだけなんだよ!お互い足の引っ張り合いして逃げられなくなって焼け死ぬんだ!ロス皇子は大喜びだろうな。それでもいいのか!?」
「お前らも!」
皇子側の人間にも視線を向ける
「あのクソ皇子、全員焼き殺すつもりだぞ」
俺がはっきり言い切ると領主たちに動揺が走った。
「ま、まさか」
「ロス皇子がそんなこと……」
否定したいが、あの皇子ならあり得るとそれぞれの顔に書いてあった。
そもそも今の状況が、俺の話を肯定している。
「全員生きて脱出するぞ!それまで喧嘩はするな!喧嘩は助かった後だ!!」
ガキの号令だが、双方なんとか拳を下ろしてくれたのを見て胸をなでおろす。
「全員聞いたか?いろいろ思う事があるだろうが一時休戦だ」
大男が俺の肩を持ってくれた。そのまま不満そうな奴隷達の背中を叩きに行く。
烏合の衆でもボスというのは自然にできるものだ。
「お前もそれでいいな?」
大男が相手のボスにも確認をとる。
「あ、ああ」
領主の了承もとれ、これで休戦協定が結ばれた。
「だが坊主、どうやって脱出する?」
「表扉は封鎖されているぞ」
「裏口ももう火の海だ」
そう領主側からの情報提供がある
「窓から下りてもあのサディスティックな皇子の事だ、途中で落とされるだろうな」
俺も同意見だ。転落死する姿を見て喜ぶクソ野郎の顔がうかぶ
「秘密の抜け道とかはないのか?」
皆、城につきものの秘密の抜け道を期待して領主を見る。
俺も領主の発言を待った。
だが、期待に反してコデインは首をふる。
「そんなものはない」
「そうか……。仕方ない。おとり役をつくって皇子たちの気を引くしかないな。その間に他のやつらは反対の窓からこっそり降りる」
大男の案を聞いて皆がごくりと息をのんだ。
「誰がその囮役をやるんだ?」
「言い出したのは俺だ。俺がやる」
「時間がない。ロープになる物の準備だ」
すでに黒い煙が上がってきている。
強引に苦肉の策をすすめるのを見て、俺は口を開いた。
「罪滅ぼし?」
俺が聞くと大男は「かもな」とまた頭をなでられた
「坊主には悪いが、ケガ人は置いて行く事になりそうだ」
ロープはケガ人担いでは降りれない。
「書斎……」
俺は腹をくくった。
「ん?」
「書斎だ。そこに秘密の通路がある」




