勘弁してください
兵士が兜をとると予想通りの黒髪がのぞいた。
クロが助けにきてくれた
あんなに皇子と会うのを嫌がっていたのに。
俺、あんなに酷いこと言ったのに。
感動する俺の前に立ったクロは、間近まで顔を近づけニコリと笑う。
「よりによってロス皇子に捕まるとか勘弁してください」
「いっ…ぐっうっ…あああああああああああ!!!」
手に走った激痛に声をあげる。
クロが俺の爪に差し込まれた釘を抜いたのだ。
それも、雑に!乱暴に!
ワザとだ!絶対ワザとだ!
「しかも、皇子の前で名前を呼ぶし」
はあ……
頭が痛いと思い切りため息をはかれた。
なんだ聞いてたのか。
「とりあえず、大したことなさそうで良かったです」
俺の状態を見てクロが感想を漏らす。
「……コレのどこ…が」
大したことないんだよ
いまだかつてこんなに大怪我をしたことはない
痛みと倦怠感で声を出すのもつらい。
「あの人に捕まって五体満足なら大したことない方です」
椅子の拘束から解いてくれたが、足が立たず崩れ落ちた。
倒れた俺の足に治癒魔法をかけてくれる。
「意識は保っていてくださいね。おばあちゃん優先なので置いて行きますよ」
つい安心して気を失いそうになったところを、クロの一言で止まる。
そうだ。俺より先に
「…キ…クを」
動けるようになったところで俺の治療を切り上げたクロがキクへと駆け寄った
俺も重い体を持ち上げキクの元へと行く。
「まずいですね。ショックを起こしてる」
先にキクの具合をみていたクロの眉間にしわを寄せていた。
「治せるか?治せるよな?」
額に手を当てたクロは真っ青な顔で、下を向いた
「外傷なら治せるんですが……」
クロの一言に泣きそうになる。治癒魔法でも駄目だなんて!
「頼む!!助けてくれ!」
必死にクロの体にすがりつく。驚いた黒い眼が俺をうつした。
「頼むよ!キクを助けてくれっ」
「とりあえず気道確保してみます。咽頭浮腫による気道閉塞でしょうから」
なにやら難しいことを言い出したが、訳の分からない俺はとりあえずうなずいておく。
「おばあちゃん、今喉に治癒魔法をかけてます。ゆっくり息を吸ってください」
喉に当てたクロの手が淡い光に包まれた
すぐに呼吸の止まっていた喉が動き始める。
キクが必死になって空気を吸い始めた。
呼吸をする度に喉からヒューヒュー音がする。
「苦しかったですね」
クロがキクの頭をなでると
眉毛がより、閉じた瞳から涙が流れる。
最後に別れた時はピンピンしてたのに。
いつものように結界のぎりぎりまで送ってくれていたのだ
俺は、振り返りもしなかったが。
俺のせいだ。
俺が後先考えず馬鹿やったからだ
「アトル」
自己嫌悪に陥っている時に名前を呼ばれ、ビクリと体を震わす。
「これはアレルギー反応と言って魔法を止めると元通りになります。なんとか落ち着くまで手が離せませ
ん」
「そばにいても、何にもできないんですから、自分ができることを考えてください」
安心するのはまだ早いと指摘されハッと顔をあげる。
「そうだっ今のうちに逃げないと」
急がないと、火が消えたらまた戻ってくる。まわりの奴隷達をみわたす。
「……あの皇子が火を消すわけないでしょう?」
クロの発言に目を丸くする。
「自分が出たら、すぐ門を閉めますよ」
「まだ、こんなに人が残っているのにか!?」
「だから、閉めるんですよ」
「火にまかれて逃げ惑う人の姿を見て笑うような人ですから。
きっとより多くの断末魔を求めて自ら火を放ち始めますよ」
ぞっとするがアイツならやる。
今なら、理解できる。クロの吐き気がするといった気持ちが。
あいつは狂っている。




