皇子らしい
宿に戻ると、クロは椅子に座り心ここにあらずといった風で床を見続けていた。
俺が戻ってきたことにも気が付かない。
いつでも周囲を警戒しているクロが。
クロの真ん前に立つがまだ気が付かない。
「おい」
ベシリと頭を叩くとやっと気が付いてくれた。
「あ、すみません、戻ったんですね」
「おう」
俺は靴を脱ぎちらかし、ベッドに足を投げ出した。
「どうでした?」
「ああ、盛り上がってたぞ。すっげえ胸糞悪かった」
俺の感想に「でしょうね」とクロは苦笑していた。
「奴隷は人間扱いされませんからね」
彼らは家畜か。線引きはどこでされてんだ。
運悪く捕まっただけじゃないか。
胸糞悪いオークションを思い出し顔をしかめる。
そんな中、一度引き離された母親と子供が引き合わされる場面を思い出す。
我が子を抱きしめ泣きながらロス皇子に感謝する女性の姿を。
言うか迷ったがロス皇子がかわいそうな親子を裏で買い取っていたことをクロに話して聞かせた。
もしかしたら、クロはこの事実を知らないのかもしれない。
知ったら少しはロス皇子の見方が変わるのではないかと期待した。
「皇子らしい」
ため息を吐きながらクロが呟く
目元は手で隠れていたが口が苦々しく笑っていた。
「らしい」ってことはロス皇子は普段からそういう人なのか。
俺の中でロス皇子は正義のヒーローと化した。
表で大々的にではなく、裏でひっそりとやっているところがまた好感度割り増しとなった。
「アイツってさ、いつもあんなこと……」
「ロス皇子の話は止めてください」
興奮しながらロス皇子の話をしようとすると、ピシャリと止められてしまった。
「なんでだよ!いいやつじゃないか」
「ロス皇子が?冗談でしょう」
「俺は大真面目だ!胸糞悪い奴等の中でアイツだけが、まともだった」
「それは善意でやっているんじゃない皇子の自己満足のためにやっているだけです」
「たとえ自己満足でも、親子を助けたことに変わりはないだろう」
「君はロス皇子を知らないから……」
「ああ、知らねえよ!お前なんにも喋ってくれないしな!」
肝心なことは言わず、気になることを仄めかして俺の事を観察しているだけだ。
「他の奴等も言ってたぞ!皇子は優しいって」
「だから、それは……」
「何があったか知らねえが吐き気がするってそりゃ言いすぎだろ!」
「なんだよ!お前なんか奴隷とか関係なしにいっぱい殺してるじゃないか!」
俺が言い捨てるとクロは声を失っていた。
「……その通りです」
「すみません」
小さく言った後クロは一言もしゃべらなくなった。
ずっと椅子に座ったまま何も飲まず食べず、睡眠もとらなかった。
鬱陶しい。
一応、ロス皇子は俺の従兄なんだぞ。
完全に尊敬の対象となったロス皇子に対するクロの態度に不満を抱きながらその日は眠りについた。
明日はついに処女部門がある。
果たしてキクはいるのだろうか。
元気でいてくれればいいんだが。




