知っていますか
クマリンへと向かう道すがら、クロは何も聞いて来なかった。
「聞かないんだな」
耐えられなくなった俺は自ら口火をきった。
「その…俺のパーティのこと」
「亡くなったんでしょう?」
事も無げに言われ、俺は目を見開いた。
「どう……して?」
さっきの説明のとき、俺はあえて自分のパーティに触れるのを避けた
「丁度あの時期が一番死にやすいんですよ」
Ⅲ群に上がって自信が付き、自分が上にあがることに熱中して、周りが見えなくなる。
「そうやって多くの人が死んでいきます。自分の力量を図り間違えて」
「勝手に決めつけるなよ!」
クロの言葉は、CCブロッカーとして聞き捨てならなかった。
「皆は別に調子にのって死んだんじゃない!汚い謀略によって殺されたんだ!」
足を止め、先を歩くクロの背中に抗議の声をあげる
「……君、この期におよんで、まだ目が覚めてないんですか」
そう言ってクロは俺の方を振り返った。
そのため息交じりの仕草に腹を立てる。
「いくらクロでも、俺の仲間を馬鹿にするのは許せねえ!」
「もういないですけどね」
冷たく言い捨てられたその言葉は、俺を逆上させるには十分だった。
剣を抜いてクロへと切りかかる。
怒りの斬撃は軽く受け止められてしまい、俺は全力で付加の炎を飛ばした
が、それすらも手応えを感じる前に視界がブレ体が吹き飛んだ。
「君がここまで馬鹿だったとは残念です」
殴られたのだと認識できたのは地面を散々転がった後だった。
「知っていますか」
「あの戦い、帝国軍五千反乱軍四万という圧倒的戦力差があったこと」
即反撃に出ようと頭を持ち上げた瞬間、頭が地面に押し戻された。
「知っていますか」
嫌というほど頭を地面にこすりつけられながら横目で見ると、クロが俺の頭を踏みながら冷たく見下ろしていた。
「あの反乱はフタラジンで飢えて苦しむ人たちが団結して、以前からずっと練られていた作戦だったこと。必ず成功させるために命がけで周辺国への協力を仰ぎ、好機を待ち満を持して起こした決死の戦いだったこと」
「そんな戦いによく、参加する気になりましたね」
「そんな話全然……」
「帝国側が教えるわけないでしょう」
「知ってたら俺達だって!」
「だから、周りが見えてないといったんです」
ぎりりと歯を食いしばる俺をみて、クロは再びため息をはいた。
頭にのせられていた足が除けられる
「知っていますか」
殴られた頬がジンジンと痛い。
憮然と起き上がった俺に更にクロの話は続く。
「僕が迎えに行ったあの日、おばあちゃんが結界の外を歩いていたこと」
「……え?」
予想外の内容に反発心が抜ける。
そんなはずはない。だってキクは……
「ええ、知ってますよ。おばあちゃんが三つ目オオカミに異常な恐怖を感じていること。それでも、いてもたってもいられなかったのでしょう。君を探しまわってました」
「日が沈んでも君が帰ってこない。死んでしまったかもしれないと泣いてました」
「今の君と同じに」
「良かったですね。たまたま僕が通りかかって。
狩りを終えた楽しい帰り道に、食われた残骸を見つけてたかもしれませんよ」
「そんなの一言も」
「そうです。おばあちゃんは文句一つ言わず何事もなかったように迎えてました。
君は弱いと馬鹿にしてましたが同じことが君にできますか?
あんなに強い人は中々いません」
「言ってくれればよかったじゃないか!」
「言っても聞かなかったでしょう?」
ぐっと口ごもる俺を見て「まったく」とクロはため息をはいた。
「今回のことで、もうとっくに目が覚めたものだと思ってました」
「大切な仲間を馬鹿にされて怒る君が何故、あんなに君の事を大切に思ってくれているおばあちゃんをないがしろにしてたんですか。少しでも耳を傾けようとしなかったんですか」
クロの言葉が刺さる。
「君が剣を教えてくれと言ってきたのは何のためですか?フランの上位に行くためですか?」
「くだらない」
腹の底から吐き捨てられて俺はギョッとした。
「常に狙われていたいですか?僕みたいに」
クロは顔を見られるだけで命を狙われていた。常に襲撃に備えて周囲を警戒している。
「勘違いしてる人が多いんですけど、強くなったら幸せになれるわけじゃないんですよ」
「仲間を大切に思うのはいいことだと思いますが、それより真っ先に優先すべきことがあるでしょう」
説教垂れるクロを睨んだままの俺は肩で何度も息をした。
「少し頭を冷やして下さい」




