同じ調べ
―――えっなんなんですか一体?
俺の声じゃない声が聞こえた。
自分の目の前には黒い上着を着た男が三人嫌な笑みを浮かべて立っていた。
「俺達にガン飛ばしてただろ」
―――誤解です!ちょっと目が行っただけで、ガン飛ばしてなんか
「ああん?俺達の勘違いって言いたいのかコラ」
―――気分に触ったのなら謝ります!すみませんでした!だから
「うっせえ」
問答無用で殴られ真っ黒な地面に手を突いた。そこにぼたりぼたりと赤が落ちる。
震える手が自分の顔をさわり、そっと離れると掌は血に染まっていた。
ギョッとした瞬間第二撃がきた。そのまま訳の分からないリンチがはじまった。
「おっ結構持ってるじゃんコイツ」
悲鳴をこらえてとにかく堪えていると、嬉しそうな声があがり顔をあげる。
男の手の平には……
―――かえせっ!!!
◆
手を伸ばした先には白い天井が広がっていた。
一瞬何が起こったのか分からずに、飛び起きる。
顔に手をやったが特に手が赤く染まったりはしなかった。
黒い男達の姿はなく、代わりに紅い目の女の子がいた。
「大丈夫か?」
白い手が伸びてきたので思わず身をよじってさけると、ゴトンと何かが落ちる音がした。
目を向けると、ベッドの下に剣が落ちていた。
あれは俺の剣だ。
そこでやっと頭がクリアになってきた。
そうだ俺、ソタロールの奴等にボコボコにされたんだ。
ここは俺の部屋だ。
ってことは俺はあの後気を失い、アム兄達に運ばれたのか。
心配そうな顔をしてこちらを見ているキクを見てカッとなった。
なんてことだ!こんな無様な姿をキクに晒してしまったとは!
俺の体を心配して額に触ろうとするキクの手を弾く。
自分で突っ込んでいってリンチにあって手も足も出せなくて、挙句の果てに気を失って運ばれるとか
かっこ悪過ぎる
アム兄達からなんて説明されているのかはわからないが、気を失った所を見られただけでも赤面ものだ。いつも引き止めようとするキクに、大丈夫だと自信満々に言っている手前、とても恥ずかしい。
「何見てんだよっ!」
はやくどこかに行ってくれないだろうか。
「ほら見たことか」と思われてそうで耐えられなかった。
「あー坊、ばあちゃんはな……」
「出ていけ!」
喋らせる隙を与えずギッと睨みつける。
しばらく何か言おうとしていたが、頑なに拒否する俺の態度を見てキクは静かに立ち上がり部屋から出て行った。
それと入れ違いにアム兄達が入ってくる。俺の声が聞こえたのだろう。
ドアの所ですれ違うキクをみて引き止めようとしていたがキクはそれをやんわりと断っていた。
「何か、あったのか?」キクがどんな表情してたか知らないがアム兄達は怪訝そうな顔で俺とキクを見比べてくる。
俺はそっぽを向いたまま「別に」と答えておいた。
「キクちゃんすごく心配してたぞ」
そんなこと、言われなくてもわかっている。
「ふーん」と素っ気無い返事をする俺を見て言っても無駄と判断されたのかこの話題は引っ込められた。
「体の具合はどうだ?」
べつにどこも痛くない。ジル兄が完璧に治してくれたのだろう。
「すまなかった!!!」
突然深々とアム兄が頭を下げてきた。
驚く俺に、直ぐに助けれなかったことを何度も謝ってこられて困惑する。
謝られることなどないのに。
俺が不甲斐ないだけなのだ。




